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社説・コラム

社説 高浜再稼働「差し止め」 新規制基準が問われる

 日本の原発政策にまたしても大きな疑問が投げ掛けられた。福井県の関西電力高浜原発3、4号機について、福井地裁がきのう再稼働を認めないという仮処分を決定した。

 差し止めを求めた周辺住民の申し立て通りである。仮処分という手段で、原発の運転を禁止する決定は例がない。すぐに効力を持つ点では裁判とはまた違った意味がある。

 この2基は、2月に再稼働に向けて原子力規制委員会の適合審査を通ったばかりだ。その根拠となった国の新規制基準について「合理性に欠く」と断じたことが、決定の最大のポイントといえるだろう。

 関電は異議と仮処分の執行停止を申し立てる構えだが、主張が認められない限り、決定には従わなければならない。既に立地する高浜町議会の同意を得て目指していた11月の再稼働に影響を与えるのは必至だ。まさしく土壇場で司法が待ったをかけた格好になる。

 今回の決定には、電力会社のみならず原発再稼働を次々と容認する規制委への不信感が色濃くにじんでいよう。

 要約すれば次の通りとなる。高浜の2基は基準地震動、つまり耐震設計の目安となる揺れの根拠が信頼できない。よって想定外の地震によって重大事故を起こし、周辺住民に危険を及ぼす恐れがある。なのに規制委の新規制基準は緩やかすぎて、たとえ適合したとしても安全性は確保されない、と。

 決定を下した樋口英明裁判長は昨年5月の福井地裁判決においても同じ関電の大飯原発3、4号機の運転差し止めを命じている。今なお高裁で審理中だ。それだけに突出した判断だと見なす向きもあろう。

 焦点の新規制基準にしても、福島第1原発事故の教訓を踏まえて重大事故への対策は強化された。曲がりなりにも再稼働の議論のベースになっている。合理性に欠くというなら、どこが不足でどうあるべきだとの具体論も要る。確かにその点では決定が生煮えの印象もあろう。

 この夏の再稼働へ動きが進む鹿児島県の九州電力川内(せんだい)原発に関しても、住民が差し止めを求めた仮処分申請の可否が22日に言い渡される。政府からすれば一連の動きを様子見しているのかもしれない。しかし安倍政権が「世界一厳しい」と自賛してきた国の基準に対して司法から疑問が突き付けられた以上、黙殺などできないはずだ。

 菅義偉官房長官は記者会見で仮処分は関電が対応する問題として「国は当事者ではない」とも述べた。そもそも人ごとではない。これまで通り「結論ありき」で再稼働に前のめりでいいのかが問われていることを、忘れてほしくはない。

 規制委は新たに再稼働が想定される愛媛県の四国電力伊方原発の審査で既に最終局面に入っている。ここでも基準地震動の扱いが焦点となってきた。四国において大地震の要因となりうる中央構造線のリスクを、どれほど評価するかである。

 裁判所に批判された規制基準で何事もなかったように議論を急ぐなら、逆に住民の不安を招きはしないか。しかも2030年の日本の原発比率をめぐる議論が大詰めだ。今こそ立ち止まり、さまざまに考えるべき機会がやってきたと捉えたい。

(2015年4月15日朝刊掲載)

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