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社説・コラム

『記者縦横』 反戦の願い 画風で貫く

■文化部・道面雅量

 市民有志による心尽くしの展示に、人の波が絶えない。昨春に89歳で亡くなった画家四国五郎さんの追悼・回顧展が20日まで、広島市中区の旧日本銀行広島支店で開かれている。反戦、反核、平和への願いを、誰にでも分かりやすい絵に描き続けた生涯。被爆70年の連載「ヒロシマは問う」を担当する今も、励まされる思いがする。

 美術担当として取材して以来、画風のあまりの「分かりやすさ」に、評価の難しさも感じてきた。原爆ドームや折り鶴も題材に、個性の表現は後回しにしたような、堅実一本やりの具象。説明的、類型的といえなくもない。市現代美術館や広島県立美術館の所蔵品リストに、四国さんの名はない。

 一方で明らかなのは、四国さんがその画風を主体的に選んでいたことだ。シベリア抑留を経て復員、弟の被爆死を知った若き四国さんは、芸術そのもののためではなく、反戦平和のために絵筆を握ると固く決意した。自らを「挿絵画家」と任じ、同じ願いを宿す数々の文芸誌、書籍、ポスター、絵本にも、親しみにあふれる絵を寄せた。

 追悼展に並ぶのは膨大な仕事の一部だが、「ヒロシマの画家」としての見事な足跡は胸を打つ。もし美術館になじみにくい画風というなら、その非は四国さんではなく、「美術」という枠の方にあるとさえ思う。残された作品を保存、公開する方策について、多くの四国ファンとともに知恵を絞りたい。

(2015年4月17日朝刊掲載)

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