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社説・コラム

社説 首相・沖縄知事会談 「対米ポーズ」では困る

 平行線は変わらなかった。安倍晋三首相と、沖縄県の翁長雄志知事との初会談である。知事が就任して4カ月、遅まきながらも顔合わせが実現した。

 首相からすれば月末のオバマ米大統領との首脳会談を前に、対話姿勢をアピールしておきたい思惑もあろう。話し合いができた点はよしとしたいが、単なる対米ポーズに終わらせるなら許されない。政府として沖縄の声をきちんと聞いていく新たな出発点にすべきであろう。

 会談の内容を見る限り、双方の立ち位置や考え方に相当の隔たりがあることを、あらためて感じざるを得ない。

 首相は米軍普天間飛行場を名護市辺野古沖に移設する計画について、あらためて理解を求めた。市街地にある普天間の危険を除くためには辺野古移設が唯一の解決策だと、従来の見解を繰り返した。つまり沖縄にとっては「ゼロ回答」だろう。

 これに対し、翁長氏は「私は絶対に辺野古に基地を造らせない」と撤回を求めた。「自ら土地を奪っておきながら、嫌なら代替案を出せというのは理不尽だ」と強調した。

 対話の継続こそ合意したものの、依然として事態打開には程遠い状況である。

 その原因は、やはり政府側にある。首相は「これからも丁寧に説明し、理解を得るべく努力する」と述べたが、まっとうな話し合いをするつもりなら、まず相手が嫌がることをやめてからが筋ではないか。

 海上作業によってサンゴ礁が損傷した問題をめぐり、国と県の対立が深まっている。まず必要なのは辺野古沖の埋め立てに向けた作業を当面、見合わせて交渉の土台をつくることだ。

 それに限らず安倍政権はこれまで沖縄の神経を逆なでするような姿勢を取ってきた。前知事による埋め立て承認の是非を争点にした知事選で翁長氏が圧勝してもどこ吹く風だった。沖縄から見れば「上から目線」にほかならない高圧的なスタンスをはっきりと改めるべきだ。

 一方、きのうの会談で米国を巻き込む問題が再びクローズアップされたのは確かだろう。前知事が承認の前提として国と約束した普天間飛行場の2019年2月までの運用停止である。日米協議の場で米国から「空想のような見通し」と批判が出たという。少なくとも日本側が強く働きかけた節はない。

 なのに首相は「引き続き全力で取り組む」と述べた。この問題においても従来のような不誠実な姿勢を続けるなら、沖縄の不信感がさらに強まることを政府側は十分に認識すべきだ。

 沖縄戦終結から70年。原点から向き合うべきは日本の安全保障政策が沖縄の犠牲の上に成り立ってきた現実ではないか。戦後は日本の国土の0・6%という狭い島に米軍専用施設の74%が集中するほどの過剰な基地を押し付けたままだ。こうまで住民に負担を強いながら、安全保障政策は国の専管事項だからと基地の地元自治体が口を挟めないどころか、民意が封殺されることがこれ以上許されるのか。

 政府側は首相と知事が頻繁に会うのは困難というが、厳しい状況だからこそ直接対話が意味を持つ。例年首相が出席する6月23日の沖縄慰霊の日も近い。こうした機会もとらえ、膝詰めの議論を重ねてほしい。

(2015年4月18日朝刊掲載)

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