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社説・コラム

天風録 「キンキンの願い」

 「銀ブラするなら募金に協力しようよ」。ラジオ局から呼び掛けたのが愛川欽也さんだ。原爆ドーム保存募金が進む1967年。広島市長の故浜井信三氏が都内の街頭に立ったのを聞いたからだ▲高度成長を満喫する銀座の街と補修費にも事欠く人類の悲劇の象徴。比べてみたキンキンは口を開かずにいられなかったのだろう。「学童疎開の世代なんですよ。ヒロシマを忘れてはいけない」と本紙に語ったことが▲東京から疎開したのは信州の寺。ひもじくて深夜の炊事場に忍び込み、お焦げをあさる。本堂から聞こえる女の子のすすり泣き…。自伝的小説「泳ぎたくない川」に投影した記憶は自らの生きざまの原風景でもあった▲テレビ桟敷を魅了した軽妙な語り。誰もが知る売れっ子は護憲を堂々と口にした。戦争は一番弱き者を傷つける―。それを肌で感じるからだろう。一方で政治の話を避ける若いタレントが物足りなく映っていたようだ▲司会していた討論番組の打ち切りを受けて3年前、インターネットテレビ局を立ち上げた。誰もやらないのなら、オレが戦争はしない、平和憲法を守れと叫ぼう、と。昔も今もにぎわう銀座の街に、どれだけ響いていただろう。

(2015年4月18日朝刊掲載)

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