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社説・コラム

天風録 「悪意の荷主」

 もっての外にも程があろう。そう言いたくなる「落とし物」である。ドローンと呼ばれる無線操縦の小型機が、首相官邸の屋上で見つかった。あろうことか、放射線を発するという。帯びる悪意がおぞましい▲外遊中で幸い、難を逃れたあるじも気が気でなかろう。積み荷次第ではテロに遭う恐れさえあった。日本という国の中枢である。警備の網を幾重にも巡らせているはず。ぽっかりと生じたほころびには、あぜんとする▲ドローンという英語は、雄のミツバチを指す。「ブーン」と羽音よろしく翼が風を切る連想から名付けたらしい。職場近くの公園で春先に見かけた時も、うなるような頭上の音で気付いた。落ちてきやしないかと、ひやひやしたのを思い出す▲欧米では既にこの冬、クリスマス商戦の目玉だった。日本では大人が主な買い手だが、それでも数千機が飛んでいると目されている。墜落事故も増え始め、保険が現れたと聞く。操縦の腕も含め、頭の上の安全を守るルール作りを急がねばなるまい▲機体や積み荷を手掛かりに、「届け主」をたどれる仕組みもあっていい。なくした物が無事返ってくる治安の良さを、海外に向かって誇る社会なのだから。

(2015年4月23日朝刊掲載)

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