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社説・コラム

社説 首相のバンドン演説 「70年談話」の先触れか

 歴史認識をどう盛り込むか。注目された演説は物足りなかったと言わざるを得ない。

 きのうインドネシアでのアジア・アフリカ会議(バンドン会議)の記念会合で、安倍晋三首相が演説した。

 テロ対策や気候変動の解決へ結束を訴えるとともに、アジアやアフリカを成長のパートナーと位置付け、技術向上や人材育成など「未来への投資」を約束した。一方で歴史認識については「先の大戦の深い反省」を示すにとどまり、「おわび」には言及しなかった。

 歴代首相が守ってきた謝罪表現などの踏襲に消極的な首相の思いが透けて見えるようだ。

 首相は戦後70年談話の土台にするつもりだろう。この内容で中韓両国の反応を探る意図があったかもしれない。しかし韓国当局者は「核心的な表現が見つからないことに深い遺憾の意を表する」と手厳しかった。

 むろん今回の演説が過去の戦争への反省や謝罪の弁が必ずしも求められる場ではないのも確かだ。そもそもバンドン会議はアジア・アフリカの指導者らが集って反植民地主義を打ち出したことに始まる会合であり、60周年の今回は経済発展やテロ対策での連携が主な議題となる。

 とはいえ2005年の記念会議で演説した当時の小泉純一郎首相は、その10年前に出た村山談話を継承して植民地支配と侵略に対する「痛切なる反省と心からのおわびの気持ち」を表明した。夏の戦後60年の首相談話にも、そのまま反映された。

 安部首相の姿勢との差は、やはり見過ごせない。70年談話に謝罪の意はもう盛り込まない。そうした受け止めが出たとしても、おかしくはない。

 演説の後、5カ月ぶりの日中首脳会談が実現した。安倍首相の側は、関係改善や戦略的互恵関係の推進を確認した、と成果を強調してみせた。

 表面的にはそうだとしても歴史認識の問題が、関係修復の大きな障害となっていることには変わるまい。現に、この会談でも習近平国家主席が「真摯(しんし)に対応し、歴史を正視したメッセージを望む」と求めたことを中国メディアが伝えている。

 70年談話が持つ重みを首相はしっかり認識すべきだ。なのに自ら波紋を広げる発言をしたのはいかがなものだろう。

 民放テレビ番組で村山談話の文言にはこだわらないと明言して「歴史認識では基本的な考えを引き継ぐと言っている以上、もう一度書く必要はない」と述べた。今まさに談話の中身の検討を委ねた有識者会議の議論が続く。それを差し置いて結論めいたことを言うのはおかしいのではないか。与党内に疑問視する声があるのは無理もない。

 首相は国会答弁では「侵略」の定義にも疑問を呈してきた。歴代内閣の歴史認識を全体として引き継ぐと口では言いつつ、要は自分の認識を反映したいのだと思われても仕方ない。

 来週、首相は米議会で演説する。再び先の大戦に触れるかもしれない。バンドン演説に続いて反応を探る試金石と位置付けている節もあるが、特に韓国との関係悪化への危惧は同盟国の米国内に根強い。

 仮に歴史修正主義者と受け止められれば、日米関係そのものにも影響してくることを肝に銘じるべきだ。

(2015年4月23日朝刊掲載)

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