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不条理に向き合う 広島で自由美術展

 ことしも独自のスタイルで、社会の不条理に目を向けた秀作が目を引く。広島市中区の広島県立美術館県民ギャラリーで開かれている自由美術協会の「自由美術展」。昨秋東京であった本展からの巡回作に広島地方グループの17点を加えた計115点が並ぶ。

 初入選の南葉優子(広島市)「ココニイル」は緑とベージュを基調に、一見ほのぼのしているのにどこか悲しい画面。大勢が古里を奪われた福島第1原発事故の被災地をイメージした。取り残された動植物に人は悲哀を抱くが、彼らにとってはここに存在することが自然―。地球の一部として生きる謙虚さを忘れた人間の愚かさを問うようだ。

 佳作賞を受けた中元寺俊幸(同)「翔(と)べなくなったハトⅠ」は、羽や肉をむしられ、格子の向こうに立つハト。平和憲法が骨抜きにされているような日本の現状を憂う。

 この10年、知人の被爆体験を絵筆に託し続ける笹賀捨雄(すてお)(同)は「劫火(ごうか)」。紅蓮(ぐれん)の炎と一体化した人影が、焼かれた人間の痛みを静かな怒りをもって伝える。西尾裕(同)「可能態」は受動でも能動でもなく可能性を抱いた何か。閉塞(へいそく)感漂う社会から懸命に立ち上る物体にも見える。

 超情報化や東京五輪への批判を込めた作品も。それぞれの問題意識を映す作品群が来場者を引きつけている。26日まで。=敬称略(森田裕美)

(2015年4月24日朝刊掲載)

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