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被爆者援護 広島市長が発言 「感謝の気持ち 忘れる人ちょっとおる」

■記者 金崎由美、野田華奈子

「医療費まけて」 簡単に言える話かな

   広島市の松井一実市長は16日、市役所で被爆者と面会した際、被爆者援護に関し「黒い雨とか何とかで、わしは被爆じゃけえ医療費まけてくれとか、悪いことではないんですよ。でも死んだ人のこと考えたら簡単に言える話かな」と述べた。被爆者団体からは批判の声が上がっている。

 この日、松井市長は被爆体験記を出した被爆者と面会。代表者が「爆心地から4キロも離れたところで被爆者というのは後ろめたいものがあった」と心境を語った。これを受けて市長は「一番ひどいのは原爆で死んだ人。残った人は死んだ人に比べたら助かっとる、と言うことをまず言わんのんですね。悲劇だ、悲劇だと(話す)」と述べた。

 さらに松井市長は被爆者への援護施策に言及。「何か権利要求みたいに『くれ、くれ、くれ』じゃなくて『ありがとうございます』との気持ちを忘れんようにしてほしいが、忘れる人がちょっとおる」と続けた。

 その後、市長発言を聞いた広島県被団協の坪井直理事長は「被爆地の市長の言葉の重みを自覚できていない。もっと被爆体験を直接聞き、大いに反省と勉強をするべきだ」。もう一つの県被団協の金子一士理事長は「被爆者は国家補償を求めているのであり援護は施しではない。感謝の気持ちについて、市長から言われる筋合いではない」と憤る。

 県「黒い雨」原爆被害者の会連絡協議会の牧野一見事務局長は「被爆者に感謝を強いるのは、原爆を落とした米国と戦争を起こした日本政府を免罪している。被爆地の市長として失格」と訴えた。

 中国新聞の取材に対し、松井市長は被爆者援護に関し「財源の話でいえば国民から税金をもらってやっている。国民の分かち合いの心でやっている。ありがたいと思うべきでしょ」と話した。一方、援護施策の拡大は従来通り国に求める考えを示した。

広島市長発言要旨

 被爆2世といわれても、親子関係でそんなに原爆の話をしとる人は多くないと思う。親は何も言わんですもんね。人生の終わりごろになって、これはちょっと言うとかないといかんかな、とぽろっと言う。

 原点は嫌だということ。その中で運動が起こったけど、本当に嫌な人は黙っとった。一番ひどいのは原爆で死んだ人。何も言えんのじゃけえ。残った人は死んだ人に比べたら助かっとる、と言うことをまず言わんのんですね。悲劇だ、悲劇だと。それはねえだろうと。

 黒い雨とか何とかでね、わしは被爆じゃけえ医療費まけてくれとかね、広げてとかね。悪いことじゃないんですよ。でも死んだ人のこと考えたら、そんなに簡単に言える話かなと思いますけどね。

 全体として許される中で、ちょっとずつ助けてもらうということはええことだと思うんです。みんなが納得しながら「やってやりましょう」というのをいただく、という感じじゃないと。なんか権利要求みたいに「くれ、くれ、くれ」じゃなくて「ありがとうございます」という気持ちを忘れんようにしてほしいが、忘れる人がちょっとおるんじゃないかと思う。そこが悔しいんですよね。感謝しないと。

(2011年6月17日朝刊掲載)

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