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社説・コラム

社説 安保法制「了承」 国会の歯止め不十分だ

 戦後70年かけて築いてきた平和国家のありようも変えてしまう。きのう政府が自民、公明両党に示した安全保障関連法案の主要条文を見ると、あらためて実感せざるを得ない。

 新設する「国際平和支援法」をはじめ11本に上る。つまるところ自衛隊の活動を世界中に拡大し、かつ集団的自衛権の行使を限定的とはいえ公然と認めるものだ。言うまでもなく安全保障政策の大転換である。

 これまでの与党協議を踏まえたものとはいえ、両党はほとんど議論もなしに事実上了承した。週明けの日米防衛協力指針(ガイドライン)の改定に向けて決着を急いだのだろう。  しかし、あまりに粗雑な議論ではなかろうか。

 与党協議で公明党が何より重視した自衛隊派遣の「歯止め」にしても、いくつか法案に盛り込まれる。だが実際にどれほど機能するかは疑問である。

 他国軍を後方支援するため、いつでも海外派遣できるようにする国際平和支援法が最たる例だろう。これまではインド洋での給油支援やイラクでの後方支援のたび特別措置法を整備してきたが、それが不要となる。

 条文には、例外なく派遣する前に国会承認が必要との規定を盛り込む。公明党は自らの主張が認められたと強調し、事後承認でもいいとしてきた自民党は譲った格好だが、よく考えれば十分な歯止めになるのか。

 むろん国会承認はシビリアンコントロールにおいて、重要な手続きであろう。しかし今回は明らかに制約がある。例えば衆参それぞれ7日以内に議決するよう努めなければならない努力規定を設けているからだ。

 政府は特定秘密保護法を理由に情報を出さない恐れもあるし他国軍の軍事作戦を前もって説明するとは考えにくい。結果的に政府方針の追認にとどまるのではないか。そもそも与党多数の場合は反対があったとしても簡単に封じることができる。

 その国会承認についての抜け穴もある。朝鮮半島有事などの後方支援を想定した周辺事態法は改正して日本周辺という制約をなくすというが、こちらは緊急の場合なら事後承認で済む。

 さらにいえば最大の焦点となる集団的自衛権行使の判断についても依然としてあいまいだ。「わが国の存立が脅かされる明白な危険」と規定するが、具体的にどんな活動を指すのか条文を見ても全く分からない。要は時の政権の裁量に委ねられているということではないか。

 政府側はこうした安保法制の内容とリンクした新ガイドラインを米国と合意しようとしている。その協議と重ね合わせるように、自衛隊の活動の歯止め策に関する政府の統一見解を与党協議会に示すという。まさしく本末転倒ではないか。

 これまでの流れを考えると、安保法制の動きに不安を抱く国民を納得させるような言い方になるとは思えない。少なくともいえるのは、米国の顔色をうかがう前にもっと議論を尽くすべきだということである。

 安倍政権は連休明けに法案全文について与党調整を終え、国会に提出するスケジュールを描く。むろん今国会中の成立が前提である。あまりに拙速で、強引に過ぎよう。将来に禍根を残さぬよう、このまま法案化していいか考え直すべきだ。

(2015年4月25日朝刊掲載)

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