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社説・コラム

著者に聞く 「虹」 周防柳さん 娘の死を探る母の葛藤

 広島で被爆した父をモデルにしたデビュー作「八月の青い蝶」で、ことしの広島本大賞に輝いた気鋭の作家。3作目となる新刊は、ミステリーだ。

 夫の浮気が原因で、10年前に離婚した晶子。小さな会社で働きながら、娘の楓子を独りで育ててきた。大学生になった楓子がある日、遺体となって発見される。遺体に不審な点があるものの、目撃者の証言から自殺と分かる。娘を死に追い込んだのは何なのか。絶望状態から少し立ち直った晶子は、元刑事の探偵と真相を探っていく。

 「八月の青い蝶」を書き終えた時、「積み残した課題」を感じた。主人公は、妻や娘に被爆体験を黙したまま亡くなってしまうからだ。「死に行く人の秘密を知らないまま生きていかなきゃならない側は、どうなんだろうと、気になった」。それが、娘の死の謎を母が追い求める今作につながった。

 さらに、物語に通底するのが「復讐(ふくしゅう)するか否か」だ。家族を突然奪われるような事件をニュースで見た時、「すごく考えたテーマ」という。「被害を受けた側に非がなく、復讐してもいいような状況。その時に、するかしないか」。晶子も、そんな葛藤を抱えながら、楓子と関係があった人物に近づいていく。

 「子どもは、親にとって掛け替えのない存在。子どもが亡くなると、自分の人生も終わったと、どうしても思ってしまう。でも、親には親の人生もある。そんなふうに考える人がいたらうれしい」

 ヒロシマ、古今和歌集の六歌仙と、デビューから2作は歴史と向き合い、物語を紡いできた。今作は一転して、オリジナルストーリー。「歴史的事実は距離を置いて見ることができるが、架空の物語は自分の脳内体験だと感じた。身にべったりくっついてくるようで、きつくて苦しかった」と笑う。

 創作でこだわるのは「対象を見る立ち位置」だ。今後も「普通とは別の角度から照射してみたい。世界が違って見えてくるといいなと思う」(石井雄一)(集英社・1944円)

すおう・やなぎ
 1964年東京生まれ。「八月の青い蝶」(「翅と虫ピン」改題)で、小説すばる新人賞。他の著書に「逢坂の六人」がある。

(2015年4月26日朝刊掲載)

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