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社説・コラム

社説 NPT会議開幕 「禁止条約」道筋つけよ

 「このままでは死んでも死にきれない」。そんな悲痛な思いで渡米した被爆者もいる。被爆70年という節目の年に5年に1回の核拡散防止条約(NPT)再検討会議が開幕した。

 約190カ国が核軍縮や不拡散について、4週間にわたって話し合う。核保有国を含むすべての参加国は被爆地広島・長崎の悲願を直視し、今度こそ核兵器廃絶に向けて実効性ある成果を導くべきである。

 というのも前回の会議から5年、核軍縮をめぐる世界の状況が明らかに後退したからだ。

 2010年の前回は、オバマ米大統領のプラハ演説後の高揚感の中で開かれ、核軍縮など64項目の「行動計画」が盛り込まれた。しかし5年を経て大半は履行されないままである。

 国際情勢も厳しさを増す。米国とロシアの対立に拍車がかかり、軍事力を増強する中国のほかインド、パキスタンでも核兵器に頼る姿勢が強まっている。前回、国際会議開催が約束されたはずの中東非核化も進んでいない。北朝鮮は核実験を再び強行した。

 現実的にみれば核軍縮の機運が高まっているとは言い難い。その中で迎える再検討会議だけに、十分な成果は期待薄との見方があるのは否めない。

 しかし、このまま核兵器廃絶への流れが先細りになることは絶対に許されない。2000年の会議では「核兵器廃絶の明確な約束」で合意している。加盟国すべてがこの約束に立ち返ることも極めて重要だ。少なくとも、これ以上の核拡散が進むことは人類にとって大きな危機であるという意識を、始まりに当たって共有する必要がある。

 会議は各国代表の演説に続いて核軍縮、不拡散などのテーマに分かれて議論する。その中で核兵器禁止条約への道筋をどうつけるかに目を向けさせたい。

 何よりの支えになるのが核兵器は人道に反するとの認識が国際社会で広がっていることだ。昨年の国連総会で非人道性を訴える声明に賛同した国・地域は155と国連加盟の8割にも上る。日本も含まれている。

 注目したいのは、オーストリアの動きである。非人道性を掲げて核兵器禁止を呼び掛ける文書を提出する予定という。60カ国以上に賛同が広がっており、禁止条約への議論のたたき台にならないだろうか。

 会議の最後には全会一致で合意文書をまとめることになっている。05年には残念ながら決裂した経緯がある。一致点を見いだし、前回に「検討する」との文言にとどまった禁止条約の表現をさらに強めるよう、各国は努力を重ねるべきである。

 同時に自国の利害にこだわらず、相互不信を克服して実効性ある核軍縮で合意すべきなのは言うまでもない。

 そのためには被爆国であり、米国の同盟国でもある日本の姿勢が問われよう。

 核兵器廃絶を希求するとしながら禁止条約には後ろ向きの姿勢を示してきた。米国の「核の傘」の下にいることを是認するからだ。オーストリアの文書にも賛同しないとみられる。

 こうしたスタンスが他国から冷ややかな視線を浴びていることが今回の会議であらためて浮き彫りになろう。被爆70年の今こそ方針を転換し、禁止条約への議論を主導してもらいたい。

(2015年4月28日朝刊掲載)

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