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社説・コラム

社説 ガイドライン改定 「危うさ」が浮き彫りに

 戦後70年にして、日米安保の姿は違う次元のものに変わっていくのだろうか。

 日米防衛協力指針(ガイドライン)が18年ぶりに改定され、オバマ大統領と安倍晋三首相の会談では当然のように「新時代の同盟関係」を打ち出した。

 冷戦終結後、じわじわと拡大しつつも限定的だった米軍への自衛隊の協力が、一気に地球規模の範囲に拡大する。かつ有事にとどまらず、平時も「切れ目なく」対象になり得る。

 これでは極東の平和と安全の維持のためだとうたう安全保障条約を本質的に逸脱する中身と言わざるを得ない。平和憲法を守ってきた日本にとって安保政策の一大転換であり、本来ならこれを争点として民意を問うてもおかしくない話である。

 1997年のガイドライン改定とは比べものにならない意味を持つ。当時は主に朝鮮半島有事を念頭に置いていた。今回は台頭する中国へのけん制を狙いとしているのは明らかだ。沖縄県の尖閣諸島を想定するとみられる離島防衛の共同対処を盛り込んでいる点に表れていよう。

 安倍政権からすれば、この日に向けて着々と流れをつくってきたといえる。昨年7月、閣議決定で憲法の解釈を変え、集団的自衛権の行使を容認した。続いて、11本に及ぶ安全保障関連法案の内容について自公両党が大筋で合意したばかりだ。

 あまりに拙速ではないか。国会の審議も経ていないその中身が、新たなガイドラインのベースになっているからだ。

 与党協議で具体的に議論されなかった日米協力のありよう、特に集団的自衛権の行使がどのように行われるのかの具体例がガイドラインに並ぶ。

 注目すべきは停戦前の機雷掃海である。日本への直接の武力攻撃が起きていなくても、密接な関係にある他国が武力攻撃され、日本の存立が脅かされるような明白な危険がある場合、日米が協力して実施する取り決めが入った。

 前のめりに過ぎよう。日本が輸入する原油の8割が通過する中東・ホルムズ海峡での機雷掃海を念頭に与党内で議論がされてきたが、停戦前に可能かどうかは自民党と公明党に意見のずれがある。その段階で米国と約束するのは問題ではないか。

 中国との向き合い方にしても不安が拭えない。新ガイドラインには平時から海洋の安全で緊密に協力することも盛り込まれている。米国は中国の進出が懸念される南シナ海で、自衛隊が米軍と共同で警戒監視をすることを期待している節がある。

 そこまで遠く出向くなら、安倍政権が今後も守るとしている「専守防衛」とはいえまい。

 忘れてはならないのはガイドライン自体に法的拘束力がないことだ。中谷元・防衛相も「法律ができていないと指針は何の実行力もない」と認める。政権が米国との合意ありきで既成事実にしようとするなら、あまりにも乱暴に過ぎよう。

 安全保障関連法案について、政府与党は5月14日にも閣議決定し、特別委員会を置いて審議を進める構えだ。今国会中の成立を図るというが、日米協力の行き過ぎにどう歯止めをかけるかあいまいな点が多々ある。国民が率直に感じる危うさが払拭(ふっしょく)できない以上、審議入り自体にも慎重であるべきだ。

(2015年4月29日朝刊掲載)

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