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社説・コラム

社説 原発回帰の電源構成 依存低減の方針と矛盾

 大きな矛盾を抱えている。

 おととい発表された2030年の電源構成比率の政府案からは、古い原発の運転延長や新増設の思惑が透けて見える。昨年閣議決定したエネルギー基本計画は「原発依存度を可能な限り低減させる」としているだけに、首をかしげざるを得ない。

 政府案では原発ウエートを20~22%にするという。福島第1原発事故前の28・6%より低く抑えたものの、現状のゼロを考えれば、時計の針を4年前に戻そうとしているように映る。

 あの未曽有の事故を受け、原子炉等規制法が見直され、原発の「寿命」は原則40年間となっている。既存の原発が老朽化する中、このルールを当てはめるなら、30年時点での原発比率は約15%に低下するはずだ。

 つまり政府案は、原発の運転延長をするか、建て替えや新増設を前提にしていることになろう。ただし明確な記述はない。

 具体的な方策を示さず、数字だけを先に挙げるやり方は強引過ぎるのではないか。経済産業省の有識者委員会でも、「(昨年12月の衆院選の)公約違反だ」との指摘があったという。

 にもかかわらず、政府が原発回帰の姿勢を鮮明にするのは、事故後に電気料金が家庭で2割、企業で3割上がっているためだ。確かに電力は経済や社会を支える重要なインフラである。経団連も、製造業のコストが膨らむとして、原発比率を25%にするよう求めた。

 しかし暮らしの安全・安心と経済をてんびんに掛けられないことは、福島の事故からも明らかだ。折しも福井県の高浜原発3、4号機について、福井地裁が原子力規制委員会の新規制基準は「緩やかにすぎ、合理性がない」として、再稼働を認めない仮処分を出したばかりだ。

 一方で政府案は、水力や太陽光など再生可能エネルギーの比率を22~24%とした。現状の約10%から倍増させ、原発比率を上回るものの、環境省が「最大35%にまで引き上げられる」との独自試算を示していたことを考えれば、評価は難しい。

 再生エネを大胆に拡大できない理由として、政府はまず固定価格買い取り制度による電気料金の上昇を挙げる。しかし、31年以降になると徐々に買い取り期間を終え、設置費用を回収した発電所で安く電力供給ができるようになる。こうした長期ビジョンは当然、政府案に反映させるべきだったのではないか。

 そもそも発電コストの試算では原発のコストが再生エネや石炭火力、水力に比べ「最安」とされたが、事故対策や安全対策の費用が十分に反映されているかどうか疑問が残る。使用済み核燃料など「核のごみ」の処分方法も置き去りとなっており、単純には優劣は付けがたい。

 6月にはドイツで主要7カ国(G7)首脳会議(サミット)がある。その場で話し合われる予定の温室効果ガスの削減目標と、エネルギー政策は深く関わっている。安倍晋三首相は日米首脳会談で「野心的な目標に関する日本の考え方をしっかり説明したい」と述べた。

 電源構成に続いて、温室効果ガスの削減目標も、きょうの中央環境審議会などで政府案が示される。安全性や経済性、地球温暖化など、さまざまな懸案が複雑に絡み合う。国民的な議論がまだまだ足りない。

(2015年4月30日朝刊掲載)

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