×

社説・コラム

社説 憲法審査会 改正の是非 徹底議論を

 憲法が施行されてきょうで68年。国会での改正論議はかつてないほど具体性を帯びる。昨年6月に憲法改正手続きを定めた改正国民投票法が成立し、連休明けの7日から、衆院の憲法審査会が再び動きだす。

 安倍晋三首相は改憲に意欲を示す。昨年末の衆院選では自民党が大勝した。こうした政治状況の下で、与野党ともこの問題に正面から向き合わざるを得ないのは確かであろう。

 自民が重要項目とするのは9条への国防軍創設明記、そして憲法改正の発議要件を各議院の定数の3分の2以上と定める96条の変更などである。

 しかし実際は異論が強い9条の改正は後回しにし、多くの党が賛同して改正しやすい項目から手を付ける「段階的改憲」を描いているようだ。1回目の国民投票で何らかの改正が実現すれば国民が慣れる―。あまりにこずるいやり方ではないのか。

 スケジュールが先に語られているのも見過ごせない。自民が改正の照準を合わせるのは来年夏の参院選を経て、2017年とされる。自公両党は衆院で定数の3分の2を超えるが、参院は発議に必要な162議席に対し135議席しかない。選挙の結果次第で何とかなる、と考えているのだろう。

 自民の思惑に対し、連立を組む公明党が「期限ありきではない」とけん制していることは重い意味を持ってこよう。

 野党側はどうか。衆参とも第2党の民主党は安倍政権のスタンスは批判しつつ改憲と護憲の両派の意見が混在し、まとまっていない。衆院で第3党の維新の党は首相公選制の導入を含めて改憲に前向きである。

 憲法の在り方について自由な議論はあっていい。だが本筋でいえば改正しやすいかどうかは判断基準になるまい。「改める」ことにこだわり、中身の議論をおろそかにしてはならない。

 象徴的なのは現行憲法にない「緊急事態条項」である。自民が段階的改憲の1回目として有力視している。大規模な災害や武力攻撃の際の緊急対応を定めるものであり、私権の一部制限や国会議員の任期延長などが、これまでの議論で挙がる。

 東日本大震災のがれき処理などに支障が出たのが契機となったようだ。ただ現行憲法の原則である基本的人権の尊重との整合性が当然、問われてくる。

 公明がかねて掲げてきた環境権も、今の憲法で十分に確保できるとの意見がある。少なくともいえるのは、どのテーマを扱うにしても相当な議論が必要になることだ。

 もう一つ考えておきたいのは憲法の理念に社会の現実がそぐわないとしても、安易な改憲では解決しないことである。

 例えば福島第1原発の事故から4年以上たっても、福島の11万人以上が県内外の仮設住宅などで避難生活を送る。これは健康で文化的な最低限度の生活を営む権利をうたう憲法25条に明らかに反していよう。

 変えるべきは憲法ではなく被災者の生活環境である。自民の側は、こうした状況も「緊急でやむを得ないこと」に該当させるつもりなのだろうか。

 審査会ではまず何を論じるかの考えを各党が示す。憲法と日本が抱えるさまざまな問題を丁寧に照らし合わせ、徹底的に議論することこそ求められる。

(2015年5月3日朝刊掲載)

年別アーカイブ