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非核外交 一定の成果 岸田氏の米・キューバ訪問 禁止条約交渉には距離

 岸田文雄外相による米国とキューバの訪問は、非核外交で一定の成果を挙げた。ただ日本政府の従来の姿勢通り、核兵器禁止条約の交渉開始には距離を置いたまま。核兵器のない世界の実現に向けた明確な道筋は描けていない。被爆地選出の外相として注目を浴びるだけに、被爆者や核兵器廃絶に熱心な国には「肩透かし」感があったのも事実だ。(ハバナ発 藤村潤平)

 日本の外相として10年ぶりに出席した米ニューヨークでの核拡散防止条約(NPT)再検討会議。開幕した4月27日の一般討論のトップで登壇した岸田氏は、11分間の演説で「広島」を7回使い、被爆地への関心を引き寄せた。討論開始の直後でざわついていた会場は次第に静まり、ヒロシマの政治家として存在感を発揮した。

 しかし、演説内容は、核戦力の透明性確保など日本政府がこれまで繰り返してきた核軍縮の現実的な提案を踏襲。「核の傘」を差し出す核超大国、米国への配慮もうかがわせた。会場で傍聴した被爆者や非政府組織(NGO)関係者からは、失望の声が漏れた。

 28日にホワイトハウスであった日米首脳会談にも同席。会談開始と同時に発表されたNPTに関する共同声明では、広島、長崎を「核兵器使用の壊滅的で非人道的な結末を思い起こさせる」と意義づけた。「広島、長崎は永遠に世界の記憶に刻み込まれる」とも記し、被爆地の存在の重みに触れた。外務省関係者は「日米とも70年の節目を重視していた」と説明した上で「岸田氏の存在が、さらに双方に被爆地を強く意識させた」と解説する。

 日本の外相として初めてのキューバ訪問では、革命指導者フィデル・カストロ前国家評議会議長(88)と会談した。歴史的な人物でもあり、高齢のフィデル氏の動静は世界中のメディアが注目している。被爆地選出の外相との異例の会談は、核兵器廃絶に関心を呼ぶ絶好の機会になった。

 ただ2日に岸田氏と会談したロドリゲス外相は、核軍縮に関して「日本の積極的な貢献を高く評価する」と持ち上げる一方で、「本質的な議論が必要だ」と指摘した。キューバは核兵器禁止条約の交渉開始を求める非同盟諸国の中心メンバー。本質的な議論とは、禁止条約の是非に他ならない。

 これに対し、岸田氏は、NPT再検討会議で日本などが提案する現実路線への支持を求めるにとどまった。日本などの提案は核軍縮の具体策ではあっても、核兵器をなくす道筋を明確に示しているとはいえない。キューバの指摘は、廃絶に向けた被爆国のリーダーシップの弱さを突いていた。

(2015年5月4日朝刊掲載)

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