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意見割れる議題 どう討論 少子化や原発 テーマに授業 シチズンシップ教育 岡山大で国際会議

多様な資料で問題意識育む 論点絞らず自由に

 政治や世の中への関心を高める「シチズンシップ教育」が近年、社会科教育の研究者の間で注目されている。見解が割れるテーマについて討論し、自分なりの意見を持てる市民を育てるための教育。岡山大教育学部(岡山市北区)で4月18日にあった国際会議には、日米韓の研究者が集い、少子化や原発といった「論争問題」を授業で取り上げる際の留意点を話し合った。(馬場洋太)

 国際会議は、広島大大学院教育学研究科などのグループが主催し、約100人が参加した。基調講演した米マイアミ大のトーマス・ミスコ教授は「単に歴史や地理を教えるのでなく、それらを『道具』として活用しながら公共の問題について熟議できるようになるのが重要だ」と強調した。

タブーか見極め

 その上で「タブーと思える問題でも、違う地域では論争の的だったりする。論争可能か見極めるのも教師の大事な役目だ」と指摘。「結論を用意したり、導いたりする必要はない。多様な資料を用意し、問題意識を育てる機会を与えてほしい」と提起した。

 シチズンシップ教育は、1990年ごろから英国を中心に普及。広島大大学院の草原和博教授によると、2011年以降の現行の学習指導要領が、討論や論理的思考を重視していることもあり、教育現場でも討論形式の授業が普及しつつあるという。

 テーマは安全保障、沖縄、原発、税金といった問題から、地元の町の課題まで幅広く設定できる。草原教授は「自分の意見を持てる市民を育てるために有効な手法」とする一方、「誰かが決めた考え方の枠内での議論にならないよう注意する必要がある」と説く。

 例えば「少子化を食い止めるために、何が大切か考えよう」というテーマ。この問い掛け方だと「少子化は克服すべき問題」という前提で議論が始まってしまう。

 会場ではテーマ設定を意識した模擬授業もあった。担当した兵庫県内の中学校教諭は「少子化は社会問題だと思いますか」と切り出した。

 教諭は、出生数は70年代から減っているのに、政府が社会問題と強く認識するのは91年ごろからだと根拠を提示。少子化を社会問題と捉えない人たちの「人口が減れば地価が下がり、通勤電車が混まなくなる」「産む、産まないは個人の自由」などの意見もあると示した上で、生徒役の岡山大生たちに討論させた。

 学生たちの結論は「社会問題である」「社会問題ではない」に割れた。教諭は「何が社会問題かを、自分自身で判断する力を養ってほしい」と授業をまとめた。

 どうすれば子どもが積極的に討論に参加するかについても議論が交わされた。韓国の研究者からは「自分の発言が友人を不快にしたり、注目されたりしないかといった心配から、積極的に発言しない子どもが多い」との報告があった。

教員の連携大切

 これに対し、お茶の水女子大付属小(東京)の教諭は、同校で3年前から取り組んでいる「サークルタイム」の取り組みを紹介。低学年を中心に、朝会や一部の授業で児童を円形に座らせることで「対話をしやすい雰囲気ができ、以前の学年より発言が活発になった」と報告した。

 教師が外部からのクレームを恐れたり、論争問題学習のテーマ選びなどで萎縮しないための方策も話し合われた。東京学芸大の渡部竜也准教授は「現場の教師の立場は弱い。教員同士が仲間をつくり、教材選びやテーマ設定など連携することが大切だ」と助言した。

(2015年5月4日朝刊掲載)

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