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つなぐ遺産 大和ミュージアム10年 <上> 観光振興 高い集客力 どう生かす

 4月に開館10周年を迎えた呉市の大和ミュージアム(宝町)で9日、記念式典が開かれる。軍港都市、工業都市として発展を遂げた呉の歴史や日本を支えてきた造船・製鋼技術を紹介するなど地域色豊かな博物館は集客力が高く、今夏までに来館者数が累計1千万人を超える見通しだ。市やミュージアムは10周年を新たな出発点とし、観光振興や展示・研究、戦争の記憶を次代に伝える取り組みを一層強化していく。

 「いろんな艦船の模型があって楽しめますね」。4月26日、岡山市の会社員堀江友寛さん(24)は、旧呉海軍工廠(こうしょう)で建造された戦艦大和の10分の1模型や戦争に関する展示を見て回った。

 観光シーズンになると、館内は見学者でごった返す。開館した2005年度は161万人が訪れ、06年度以降も74万~117万人台で推移している。

 市の当初目標は初年度40万人、2年目以降は20万人だから、「うれしい誤算」が10年にわたり続いていることになる。日本博物館協会(東京)も「全国的に見ても有数」と高い集客力を認める。

 ミュージアムが開館した05年を、市は「観光元年」と位置づけている。この年、呉市を訪れた市外の観光客は前年の倍以上の約345万人に増えた。以降も毎年300万人前後を維持している。

「一押し」望む声

 ミュージアムの近くに11年開店した地酒専門店「呉蔵元屋」の大屋幸二代表(56)は「売り上げは右肩上がり。お客は観光客がほとんど」。ミュージアムの土産物店に並ぶ約500種類の商品のうち、7割が地元からの納入だ。ミュージアムの恩恵を受ける業者は少なくない。

 ただ「もう一押し」を望む声もあるのも事実だ。市内の宿泊客数は、開館した05年は約40万9千人と前年の約1・5倍になったものの、その後は35万~40万人と横ばいが続く。ミュージアム来館者へのアンケートでは宿泊地のトップは広島市。ミュージアム以外に訪れた場所は広島市、宮島(廿日市市)を挙げた人が多い。ミュージアムだけ見て市外に行く人が目立つ。

循環バスを運行

 観光客を市内に引き留めて経済効果を高めようと市は懸命だ。06年から市中心部の観光スポットを巡る循環バスを走らせるなど各種取り組みをしてきた。

 4月には海上自衛隊呉基地と協力、市内を中心に22店で人気の「呉海自カレー」を食べられるようにした。ミュージアムと周辺にとどまる効果を、どうやって広げていくか。模索が続いている。(広重久美子)

(2015年5月8日朝刊掲載)

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