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社説・コラム

天風録 「原潜の母港スコットランド」

 女王陛下の原子力潜水艦は七つの海を巡っている。東西冷戦中は極秘指令書を携えて。万が一、英国が壊滅させられた時に、開封する。「米国に従え」「豪州へ行け」と記してあったという。「敵国に核ミサイルを撃て」とも▲母港の基地は年中、どんより曇っている北部にある。山に囲まれ、攻撃されにくい湾内を選んだらしい。昨秋、独立運動に沸いたスコットランドの一角である。今度はその地から「核兵器廃絶」を求める波が広がった▲英国の総選挙は保守党が勝利し、過半数を占めた。その一方で第三極のスコットランド民族党が躍進を見せた。マニフェストに核ミサイルの放棄を記して。核軍縮を望む民意の高まりを、新政権も無視してはなるまい▲地域に原潜の母港があれば、いつ敵から攻撃やテロの標的とされるか分からない。うねりの源には、住民の不安があるのだろう。押し付けられたリスクと暮らす日々。米軍基地が集中している沖縄とも重なって見える▲今はどんな指令を携え、鉄のクジラたちは暗い海に潜っているのだろう。恐ろしい指令書がひもとかれる日の来ないことを願う。「核武装を解く。母港に帰れ」。そんな朗報が届けられるといい。

(2015年5月9日朝刊掲載)

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