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社説・コラム

社説 英国総選挙 二大政党制 節目迎えた

 英下院の総選挙は与党の保守党が事前の予想に反して大差で第1党の座を守った。二大政党制の一翼を担ってきた労働党が退潮した半面、スコットランドの地域政党が大躍進した。

 ただ保守党の獲得議席は過半数ぎりぎりで、幅広い支持を得たとは言い難い。キャメロン首相は他党の主張に耳を傾けつつ、財政再建や欧州外交などの重要案件に取り組むべきだ。

 保守党主導の政権はこの5年間、財政再建や経済成長をある程度果たした。国民の間には緊縮財政への不満があるものの、変革よりキャメロン政権の継続を選択したといえよう。

 一方で、労働党は富裕層への課税強化や最低賃金の引き上げを掲げたが浸透せず、大物議員が次々と落選した。何より痛かったのは、左派色が強く、「金城湯池」としてきたスコットランドでの不振であろう。

 これと表裏一体であるのが、スコットランド民族党(SNP)の大躍進である。改選前6議席から50議席超に伸ばし、第3党に躍り出た。

 伏線はスコットランド独立を問う昨年9月の住民投票にある。反対多数で否決されたが、これを機に自治権の拡大を求める声が一層強まった。英国を長らく支配するイングランドへの対抗心を主とする民族主義も高まり、それらをSNPがうまくすくい上げた結果といえよう。

 インパクトの大きい公約もあった。スコットランドを母港とする原子力潜水艦が搭載する核ミサイルの放棄を求めたのだ。国の安全保障に関わる問題で広く関心を集めたのではないか。

 選挙の大きな争点は、近年急増する欧州からの移民問題だった。保守党は欧州連合(EU)に移民政策の見直しを求めた上で、2017年末までにEU残留の是非を問う国民投票の実施を掲げた。労働党やSNPなどは消極的だが、保守党勝利で投票実施の可能性は高まった。

 定数650の英下院は、主要政党に有利とされる完全小選挙区制を取る。その結果、戦後ほぼ一貫して、保守、労働両党が政権交代を繰り返し、「二大政党制のお手本」とされてきた。

 1950年代は両党で全投票の9割を占めたが、その割合は右肩下がりになる。前回は65%で両党とも過半数を得られず、「ハング・パーラメント(中ぶらりん議会)」と呼ばれ二大政党制の終焉(しゅうえん)を指摘する声もあった。

 今回の総選挙では両党合わせて68%前後の得票で、議席の約85%を得た。一方で英国全体では5%の得票のSNPが議席の10%弱を得たのに対し、8%得票の自由民主党の議席は2%に届かない。

 得票率と議席数の隔たりは小選挙区制の特徴で、これは日本でも言えることだろう。

 英国などに倣って、96年に衆議院で小選挙区比例代表並立制を導入した。確かに政権交代につながった。しかし昨年12月の衆院選を見ると、自民党の得票率は約48%ながら、全選挙区の4分の3を得た。

 国会での数の力で、実際の民意とは別の方向に政治が進む恐れもないとはいえまい。

 時代とともに、人々が政治に求めるものも変わる。英国の総選挙がそれを示した。これからの政党政治は、異なる主義主張の人や党をまとめる合意形成の努力が欠かせない。

(2015年5月9日朝刊掲載)

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