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連載・特集

つなぐ遺産 大和ミュージアム10年 <中> 調査研究 デジタル化 社会に還元

 広島県呉市の大和ミュージアム(宝町)の4階には資料室がある。戦艦のモノクロ写真、設計図、開発にまつわる文書…。約22万点に上る資料を保管している。

 常設展示品として来館者の目に触れるのはそのうちの約1500点。残りはほとんど資料室に置き、学芸員が日々、調査、研究やデジタル化に励む。寄贈や購入により10年で約8千点増えた。

産業発展の縮図

 ミュージアムの正式名称は「呉市海事歴史科学館」。その名の通り、施設の主要テーマは歴史と科学である。新谷博学芸課長(54)は「呉の歴史は、近代の産業発展の歴史の縮図といえる。呉ならではの施設」と強調する。旧呉海軍工廠(こうしょう)とともに栄えた呉の歩みをたどり、現代につながる科学技術を伝えてきた。

 研究成果は主に特別企画展に反映させている。2013年7月から10カ月で28万人以上動員した「巨大戦艦大和展」では、図面や写真を基に大和の艦橋を復元。14年の「戦艦大和・武蔵の進水式展」でも、関係者の証言や工程表から進水式の様子をコンピューターグラフィックス(CG)映像にした。ミニ企画展も随時開いている。

 本年度は新規採用、市の定期異動で学芸員を5人から8人に増やした。「研究を社会に還元することが最も重要」と新谷課長。開館10年を節目に、博物館としての魅力をより高めるのが狙いだ。

 ものづくりを中心とした科学技術を展示の軸とするミュージアムは、将来を担う世代の関心を呼び起こす取り組みにも力を入れてきた。

JAXAと協定

 地域の教育機関と連携し、工作教室やサイエンスショーといった子ども向けの科学イベントも開催している。開館以来続き、14年度は166回に上った。10年には宇宙航空研究開発機構(JAXA)と協定を締結し、宇宙開発に関するビデオ上映も始めた。

 イベントに講師を派遣する呉高専(呉市阿賀南)の楠田和身特命教授は「参加した子どもが後に高専に入学したケースもある。科学への興味を育む場を提供し続けるミュージアムの役割は大きい」と期待している。(小島正和)

(2015年5月9日朝刊掲載)

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