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社説・コラム

社説 NPT会議「素案」 対立乗り越え合意図れ

 事前の予想通りだろう。先月末から米ニューヨークの国連本部で開かれている核拡散防止条約(NPT)再検討会議は、核保有国と非保有国が対立する構図が解けないままである。

 特に焦点となる核兵器の非合法化について、意見の溝は大きい。しかし中間まとめの格好で主要な3委員会が示した最終文書の素案を見る限りは、まだ光は差していよう。

 核兵器禁止条約を念頭に、国連の下で期限を切った「法的な枠組み」を速やかに検討するよう促したからだ。禁止条約の必要性を直接言及できれば、再検討会議として初めてのことになる。各国代表の演説で、メキシコなど非保有国を中心に渦巻いた声を反映させたのだろう。

 そればかりではない。各国の指導者らが広島・長崎を訪れて被爆者の証言を聴くよう求めたほか、核大国の米国とロシアに対しては、さらなる核軍縮交渉を要求した。保有国に核弾頭数や種類を年次報告させ、監視する仕組みも提案している。

 全面廃絶へのプロセスをすぐにも望む被爆者から見れば、生ぬるく映るかもしれない。とはいえ会議を取り巻く状況を考えれば広島と長崎の訴えに一定に近づいたものだといえよう。

 22日の閉幕に向け、これから後半の議論が本格化する。全会一致で採択される最終合意文書に向け、各国の交渉が水面下で続くはずだ。素案がそのまま生かされるかは必ずしも見通せない。だが対立を乗り越え、せめてこの中身で合意にこぎつける努力を重ねてもらいたい。

 むろん鍵を握るのは核保有五大国の動向である。核廃絶への道筋は示さず、段階的な核軍縮が「唯一の現実的な選択肢」とする共同声明を既に発表している。非保有国ペースの議論の流れをけん制したのだろう。

 NPT体制を堅持しつつ、自分たちに有利な核体制を守るのが本音にほかなるまい。とりわけ米国は会議の成功を演出しようと合意文の採択は目指すが、あの手この手で素案の骨抜きに動くのは想像に難くない。

 あるいは日本政府も、片棒を担ぐつもりなのだろうか。

 米国と合意したばかりの日米防衛協力指針(ガイドライン)に核抑止力の提供が明記され、被爆国でありながら同盟国の核に頼る矛盾が一段と鮮明になった。再検討会議の場でも保有国の側に寄り添うように段階的核軍縮論を支持している。同じように米国の「核の傘」の下にいるオランダが核兵器禁止に言及したのと比べたくもなる。

 核保有国と核兵器への依存を唱える全ての国に求めたい。人類の未来を思うなら曲がりなりにも議論が始まった禁止条約への流れを断ち切るな、と。

 ことしの再検討会議は、核軍縮・核不拡散の動きが明らかに停滞もしくは後退している局面で開催されていることを忘れてはならない。仮に十分な成果が残せないとすれば、核兵器のない世界への道のりは、さらに遠のきかねない。

 合意文書の駆け引きの前に原点に返り、大量破壊兵器の脅威への認識を共有すべきだ。会議では過去最多の159カ国が核兵器の非人道性を訴え、不使用を求める共同声明に賛同した。国連加盟国の8割に相当する。高まる国際世論にこれ以上背を向けることは許されない。

(2015年5月11日朝刊掲載)

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