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「政争の具にするな」 「広島・長崎訪問」削除 被爆者ら一斉反発

 核拡散防止条約(NPT)再検討会議の最終文書の素案改定版で、政治指導者たちへの被爆地訪問を要請する記述が削除されたことが明らかになった13日、被爆者や被爆地の首長は「被爆地の思いを政争の具にするな」と一斉に反発した。「核兵器なき世界」の実現へ被爆の実態を理解してほしいという願いが、中国の唱えた歴史認識問題にかき消される事態。記述の復活へ、日本政府の外交努力も求めた。(岡田浩平、新谷枝里子)

 「核兵器をなくす決意をするために広島、長崎を訪れてと言っている。中国の言い分は納得できない」。広島県被団協(坪井直理事長)の箕牧(みまき)智之副理事長(73)は憤慨する。再検討会議に合わせて米ニューヨークを訪れたばかり。「『百聞は一見にしかず』だ。被爆地で見聞する意義は大きい」

 もう一つの県被団協の佐久間邦彦副理事長(70)も同様に渡米し、核兵器禁止条約の交渉開始を各国政府に迫る輪に加わった。会議で条約を取り上げた点を評価していただけに「安倍晋三首相の歴史認識問題が影響を及ぼした面があるのだろうが、核兵器廃絶と結び付けてほしくない」と残念がった。

 広島市の松井一実市長は市役所で急きょ記者会見。被爆地訪問は「歴史を歪曲(わいきょく)する」という中国の主張が削除の背景とみられている点に「被爆者の切なる願いを全く理解しない対応だ」と強く非難した。平和行政で一貫して「迎える平和」を唱える市長。会議の参加国に対し「広島の思いを政争の具とすることなく、これからの議論を進めてほしい」とあらためて呼び掛けた。

 広島県の湯崎英彦知事も記者会見で「日中間の歴史認識と、核兵器の非人道性について確認していこうという提案は全く違う話。非常に残念」と述べた。県は今後、大使館などを通じて中国政府に被爆地訪問の意義を説明する方針。湯崎知事は「習近平国家主席にも広島に来て、ご自身の目で(被爆の実相を)確認していただきたい」と訴えた。

 広島平和文化センターの小溝泰義理事長は外務省に勤めていた2005、10年の再検討会議に関わった経験がある。「敵対している国同士も共同行動をとって核なき世界へ知恵を出し合おうという機会。原点を確認するのがどれほど大事かを多くの国に理解してもらえれば、削除するという愚かなことにならないはずだ」と指摘した。

(2015年5月14日朝刊掲載)

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