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社説・コラム

社説 安保法制閣議決定 これで国会を通すのか

 安全保障関連法案が、きのう閣議決定された。きょうにも国会に提出される。集団的自衛権の行使容認を裏付ける武力攻撃事態法などの改正10法案から成る「平和安全法制整備法案」と、他国軍の後方支援を随時可能とする新法の「国際平和支援法案」である。

 安倍晋三首相はきのうの記者会見で「(野党の一部などから出ている)戦争法案などといった無責任なレッテル貼り」と述べた。それに抗したのか、国会提出の段になって一括法案に「平和」の2文字を冠したことには、違和感が否めない。

 戦後の日本では、個別的自衛権の枠内で自衛力を保持する政府の憲法解釈が定着していた。それを大きく転換し、集団的自衛権の行使を可能にする憲法解釈へとかじを切ったのが、昨年7月の閣議決定である。

 日本を取り巻く情勢がそれほど緊迫の度を増しているというのなら、いまさら数文字の言葉をいじるまでもなかろう。

 10本もの法案をひとくくりにして国会に提出する手法にしても乱暴ではなかろうか。

 一括法案には、武力攻撃事態法の改正のほか、周辺事態法の日本周辺という地理的制約を外す法改正、自衛隊員の武器使用基準を緩和する法改正などが含まれている。「周辺」概念の撤廃については歯止めなき自衛隊派遣につながる―などとして、自衛隊の国連平和維持活動(PKO)には一定の理解を示す民主党や維新の党も危惧しているほどだ。

 このほかにも歴代政権が是としなかった内容が含まれており、一つの法案ごとに十分な審議時間を費やすのが、国民の負託に応える国会のあるべき姿だろう。なぜ一括法案でなければならないか、記者会見で国民に説明すべきではなかったか。

 与党は審議時間を衆院で少なくとも80時間と見込んでいる。だが、一つの法案でも足りないくらいだ。ことほどさように、安倍政権は安全保障政策の転換に前のめりであり、それと裏腹に野党の指摘する「国会軽視」が透けて見えよう。

 与党協議で公明党は自衛隊派遣の「歯止め」を何より重視したという。国際平和支援法案では「例外なき国会承認」を要求し、自民党が譲歩したと成果を強調している。

 だが、同法案では衆参各院7日以内の議決といった「努力義務」も課された。そのほかの法案では国会の関与の度合いが相対的に弱いケースもあり、周辺事態法の改正案では「原則事前承認」としながら「緊急時の事後承認」も容認されている。これで歯止めになるのか。

 野党は「国会軽視」の現実を座視することなく、一つ一つ追及すべきだろう。政党政治の存亡にも関わる問題である。

 安倍首相は先日の米議会演説で安全保障関連法案を夏までに成立させると約束した。きのうの記者会見では「政権の発足以来、繰り返し語ってきた。選挙でも信を問うた」と述べた。

 だが昨年12月の総選挙は自ら「アベノミクス解散」と名付けたように、経済政策が争点だったはずだ。4月末の共同通信社の全国電話世論調査でも、今国会成立に「反対」が48・4%と賛成を上回る結果が出ている。いずれの法案も、今国会では成立を見送るべきだろう。

(2015年5月15日朝刊掲載)

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