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社説・コラム

『潮流』 軍艦ブーム

■論説委員・東海右佐衛門直柄

 「軍艦人気」が再び盛り上がりつつあるという。

 「かっこいい」「こっちの方が迫力ある」。広島市内にある家電量販店のおもちゃ売り場をのぞくと、若い親子連れがプラモデルコーナーで品選びをしていた。「人気&話題のおもちゃ」と大きな宣伝ポスターが掲げられ、戦艦大和や武蔵、長門など約40種類がずらり並ぶ。

 大手メーカーのタミヤ(静岡市)によると1960年代からのロングセラーである軍艦プラモデルが再び注目されだしたのは1年ほど前から。軍艦を擬人化して戦うオンラインゲームやテレビアニメの人気が背景にあるらしい。さらに3月にフィリピン沖に沈んでいた武蔵が発見され、注目度が増しているという。

 大和ゆかりの地にも波及しているのだろうか。大型連休に呉市の大和ミュージアムを訪れると、思った以上ににぎわっていた。昨年度の入館者のうち30代以下が6割を占めるという。

 大和の巨大模型の前で、笑顔でピースサインをしながら、カメラに納まる家族連れやカップルが数多く見られた。いつもながらの光景とはいえ、少々違和感は拭えなかった。

 日本の技術力を結集して建造された大和。その造形美と迫力に心ひかれる気持ちはあろう。だが3千人の乗組員が命を落とした悲劇の舞台でもある。映画のセットを見学するような感覚だけでいいものだろうか。

 ことしで開館から10年。ミュージアムが造られた意味を思い返したい。軍港であり、多くの軍艦を送り出した呉の歴史を紹介し、とりわけ大和の命運を通じて科学技術の光と影を語るのが狙いだろう。

 この巨大戦艦に関しても乗組員の遺書や遺影など悲劇性を伝える展示がある。こうした部分も素通りせずにしっかり見てほしい。忘れてはならない教訓を、胸に刻み直すために。

(2015年5月16日朝刊掲載)

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