×

ニュース

母の被爆体験 児童文学に

■記者 伊藤一亘

広島の井上さん「この空の下で」 親子で読んで

 2009年に中国短編文学賞で優秀賞を受賞した井上雅博さん(47)=広島市安佐北区=が、原爆に負けずに強く生きようとする少年を描いた児童文学「この空の下で」=写真=を朝日学生新聞社から刊行した。母親から聞いた被爆体験などを基に執筆。井上さんは「親子で読んで、原爆について考えてほしい」と話している。

 物語は太平洋戦争中の広島市の草津地区が舞台。絵が好きな12歳の少年・高志は兄を戦争で失い、祖母、母、姉と暮らしていた。ある日高志は、赤紙が届いた兄の親友から絵の道具を託される。そして8月6日、母の代わりに建物疎開作業に出た姉が被爆。姉はひどいやけどを負った自分の姿を絵に描いて残すよう高志に告げる。

 作品は井上さんの母親の体験がモチーフになっている。戦前、草津に住んでいた井上さんの祖父は、原爆投下時、市内の小網町で建物疎開の作業中で、ひどいやけどを負い2日後に亡くなった。母も草津の浜辺で遊んでいて被爆している。「母から聞いた事実の部分と、創作の部分とのギャップを埋めるのに苦労した」と打ち明ける。

 井上さんは同作品を昨年の「朝日学生新聞社・児童文学賞」に応募。受賞は逃したが、作品を惜しんだ同社が出版を決めた。今年3月には朝日小学生新聞で14回にわたって連載された。

 井上さんは母の死を機に9年前から原爆を題材にした詩を書き始め、08年に中国詩壇で詩壇賞を受賞。「テーマを深く掘り下げたい」と小説も手掛けるようになり、09年には「第41回中国短編文学賞」で優秀賞を受賞した。

 今回、児童文学を選んだのは「原爆を一番知っておいてほしい世代は子どもたちだから」と説明。新聞で読んだ子どもたちからは「戦争の怖さが伝わってくる」「命の尊さを学んだ」などの感想が届いているという。井上さんは「戦争はだめ、平和がいい、という簡単な結論にはせず、希望の物語にしたかった」と話している。

 B6判、222ページ、840円。

(2011年7月2日朝刊掲載)

年別アーカイブ