×

社説・コラム

NIE指導者 後進育成を 広島県の「推進協」会長を退任 小原氏に聞く

 NIE(教育に新聞を)活動を支援する広島県NIE推進協議会で、1994年の発足当初から20年余り会長を務めた広島大大学院の小原友行教授(社会科教育)が16日に退任した。協議会の歩みを振り返り、活動の成果や課題、今後の展望を聞いた。(加茂孝之)

  ―NIEに関わるきっかけは何だったのですか。
 広島県教委にいた先輩から「新聞を教育に使う協議会を発足させるので協力してほしい」と誘われた。当時、全国で協議会があるのは10県程度だったと記憶している。NIEという言葉も認知されていない時代で、何から手を付けていいのか分からず手探り状態だった。

 97年に広島で開かれた全国大会に向け、多くの教え子に声を掛けるところから始めた。全国大会では、中央教育審議会の委員にNIEがどのように役立つのか訴えてもらった。

活動に持続性■

  ―広島発の取り組みも進めてきました。
 最初の5年間ぐらいは、新聞の無料提供などを通じて活動を支援する「実践指定校」が着実に増え、順調だった。ただ、日本新聞協会が指定する実践校での活動だけでは、取り組みが一過性になるとの危機感も抱いていた。

 協議会は持続性を持たせようと、新聞協会とは別に独自に実践校を指定する制度を設けた。実践者や専門家が意見交換するNIE学習会を開き、熱心な先生を表彰する教育奨励賞も設けた。いずれも全国に先駆けた試みだった。

  ―NIEの成果をどこに感じましたか。
 新聞記事を読み、内容を理解する読解力を養うことは大切だ。しかし、それだけではない。社会や人に興味を持ち、平和で民主的な社会をつくり出せる人材を育てるのが大きな目標だ。子どもたちが「なぜ」「どうして」と日常的に考えることを続け、新たな価値を創造しようとする姿に手応えを感じた。

 原爆や平和に関する記事を集め続けた女子生徒は「高校生平和大使」になり、核兵器廃絶の願いを世界に発信する役割を担うようになった。成果が少しずつ出始めている。

  ―20年余りをどう振り返りますか。
 「中国新聞みんなの新聞コンクール」に入賞した子どもが成長し、対談する機会も得られるなどの醍醐味(だいごみ)を味わえた。新聞社や教育関係者と強いネットワークが構築できたのも推進力となった。保護者の理解も広がった。

  ―NIEをさらに広げるためには何が必要ですか。
 活動に熱心な先生も徐々に高齢化している。継続的な取り組みにするためには後進の育成が不可欠だ。2011年度から順次、小中高の学習指導要領に新聞活用が盛り込まれたが、若い先生の中には新聞に親しまずに社会人になった人も多い。単に「新聞を切り抜いて授業で使いましょう」と言ってもうまくいかない。

 最近は、熱心に取り組む子どもをNIE学習会に参加させるようにしている。成長した子どもの姿を目の当たりにすれば、若い先生もやる気を出す。これも広島発の取り組みだと思う。

記事で希望を■

  ―教材の新聞に求めるものは何ですか。
 NIEに関わり始めた当初から、子どもが自分の頭で考え、社会で起こっていることを深く読み取ることができる質の高い記事が必要だと感じてきた。官公庁発の記事だけでなく、記者が汗を流して見つけてきた記事こそ、NIEに不可欠だと思う。子どもの好奇心を育む記事が一本でも多く提供されることを願う。

  ―今後のNIEに期待することは。
 記事を通じて、子どもたちに希望を持たせることもNIEの大切な役割だと考える。広島県神石高原町の油木高の生徒が米国まで研修に出掛け、ナマズ養殖を通して特産化を目指す試みが連載で紹介された。社会と関わる姿を紹介すれば、子どもたちの励みにもなる。生活科が専門の朝倉淳新会長の下、若い先生が今以上に参加し、社会と深い関わりを持ったNIE活動が育つことを願っている。

<広島県NIE推進協議会に関する主な動き>

1994年度   広島県内に本社、支社などを置く新聞社・通信社、県、広島
         市教育委員会、学識経験者で構成する広島県NIE推進協議
         会が発足
  97年度   広島市で第2回NIE全国大会が開催
2001年度   実践者や専門家が意見交換する県NIE学習会を開始
  03年度   実践指定校の広島県独自枠制度を創設
  03年度   熱心に活動する教諭を表彰する教育奨励賞制度を創設
  11年度から 小中高で順次、学習指導要領に新聞の具体的な活用法が盛り
         込まれる
  14年度   海田西小(海田町)に県内初のNIE専任教員が誕生

NIE
 「Newspaper in Education」の略称。「教育に新聞を」と訳され、学校などで新聞を教材として活用する取り組み。1930年代に米国で始まり、日本では85年の新聞大会で提唱されて全国に広がった。広島県では日本新聞協会の実践指定校3校から始まり、県NIE推進協議会が指定する独自枠を含め、2014年度までに延べ399校になった。

こばら・ともゆき
 51年、尾道市出身。広島大大学院教育学研究科博士課程後期単位取得退学。高知大助手などを経て、97年から広島大教授、01年から同大学院教授。10年4月から日本NIE学会会長を務める。63歳。

(2015年5月18日朝刊掲載)

年別アーカイブ