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太平洋戦争の空襲被害 援護法制定へ動き加速 超党派議員連法案来年提出

■記者 岡田浩平

 太平洋戦争の民間人被害を国が補償する「空襲被害者等援護法」(仮称)の制定を目指す動きが加速している。先月発足した超党派の議員連盟が法案を来年の通常国会に提出する方針だ。国の「戦争被害受忍論」を乗り越えて成立すれば、原爆被害への「国の償い」実現にも追い風になる。

 国会内で先月15日にあった「空襲被害者等援護法を実現する議員連盟」の設立総会。会長に就いた民主党の首藤信彦衆院議員は「戦争被害を補償し、未来への一歩を踏み出したい」と力を込めた。民主、公明、みんな、共産、社民各党と無所属の計30人弱が所属。自民党にも参加を呼び掛けている。

 国は戦争被害のうち旧軍人・軍属や遺族には年金などを支給。一方、一般戦争被害は「国民が等しく受忍しなければならない」という受忍論に立ち、補償がない。

 議連が全国空襲被害者連絡協議会(空襲連)や衆院法制局とまとめた援護法の骨子素案は、法の趣旨を「国の責任」による空襲被害者、遺族らの救済と被害の実態調査であると明記。(1)死没者遺族への弔慰金(2)障害を負った人への給付金、医療給付(3)孤児への給付金―を3本柱に掲げた。追悼碑や記念館の設置も盛り込む。

 空襲連は「呉戦災を記録する会」など中国地方を含む20団体余りが参加し、昨年8月に結成。続く議連結成を後押ししたのが、一昨年12月の東京大空襲訴訟の東京地裁判決だ。原告の請求は棄却されたが受忍論は引用せず、救済を「立法を通じて解決すべき問題であるといわざるを得ない」と指摘した。

 民間被害の切り捨ては平和主義や法の下の平等を定めた憲法に反する、天災でも民間被害は補償される―。被害者らはこうした点も踏まえ議員、世論に訴える。空襲連の城森満副運営委員長(78)は「戦後補償の歴史を変える使命を持って取り組みたい」と語る。

 被爆者援護法の改正を目指す日本被団協もこの動きに注目している。受忍論により原爆被害は放射線の健康被害に特化した援護策が取られ、爆風や熱線による死没者らへの補償はないからだ。

 空襲死没者への弔慰金が実現すれば原爆死没者も対象になる。空襲連で国会対策を担当する東京都原爆被害者団体協議会(東友会)の山本英典副会長(78)は「空襲の援護法ができれば事実上、受忍を打ち破ることになる。原爆被害全体への国の償いを求める被団協の運動にも弾みがつく」と期待し、ともに汗をかく構えだ。


議員連事務局長 高井氏に聞く 補償は当然という前提で


■記者 岡田浩平

 「空襲被害者等援護法を実現する議員連盟」事務局長の高井崇志氏(比例中国)に立法の見通しを聞いた。

 ―今後の予定は。
 援護法の骨子素案を基に具体的な法案作りを進める。次期通常国会に提出したい。

 ―参加の広がりは。
 民主党内は関心の高い議員は多い。法案が固まれば政調を通じて理解を求めたい。自民党にも前向きな議員はいる。

 ―受忍論を乗り越えられますか。
 一律に受忍しろというのはおかしい。私は官僚時代、本来やるべき正しいことも財源がないから認めないというのを見てきた。この問題もその一つ。補償するのは当然という前提で力を尽くしたい。

(2011年7月4日朝刊掲載)

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