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推進派、中電姿勢を歓迎 上関原発埋め立て免許延長再申請 反対派「無意味」と非難

 原発新増設の政府方針が定まらない中、山口県が審査中の上関原発(上関町)建設予定地の公有水面埋め立て免許延長の期間をさらに延ばすよう中国電力が県に申請した18日、計画継続を前提とする再延長の「意思表示」に上関町の受け止めは割れた。延長申請をめぐり県が中電と補足説明のやりとりを繰り返し、可否判断を先送りしている現状への不満も計画推進、反対両派から聞かれた。(井上龍太郎)

 午前10時ごろ、中電社員が柳井市の県柳井土木建築事務所を訪れ、申請書類を提出した。ことし10月までの3年延長を申請した2012年10月は、提出が免許期限の1日前。4カ月余り残してさらに2年8カ月の延長を求める今回のタイミングは、地元の意表を突く形にもなった。

 推進派は歓迎の様相を見せる。上関町商工事業協同組合の角田五明事務局長(66)は「朗報。計画を重要視する中電の姿勢がうかがえる」。事業主の高齢化や死去による廃業が後を絶たず、危機感を抱く。「塩漬け状態が一番よくない。工事再開のため、県には法に基づき許可の手続きを進めてほしい」と願う。

 反対派の「上関の自然を守る会」の高島美登里代表(63)は「上関原発は計画自体が不透明。意味のない引き延ばしを繰り返すのか」と中電を非難する。埋め立て海域には豊かな生態系が残されていると説明。「先送りが保護活動の機運をそぐ。知事は一刻も早く不許可の判断をするべきだ」と主張する。

 政府が30年時点で目指す電源構成比率の原発を「20~22%」とする案を固める中、経済産業省は新増設を「想定していない」としている。柏原重海町長は「中電は考えがあって出したのだろう。淡々と知らせを聞いた」。県の審査には「知事に言う立場にない」と言及を避けた。

 中電は6度目の補足説明に対する回答文書を15日、県に発送したばかり。中電上関原発準備事務所は今回の申請について、「現状維持のスタンスに必要なため」と説明した。

≪埋め立て免許をめぐる主な経緯≫※肩書は当時

2008年10月20日 原発計画に反対する山口県上関町の祝島の漁業者たち
            が免許差し止め(後に免許取り消しに変更)を求めて
            山口地裁に提訴
     10月22日 二井関成知事が中国電力に免許を交付
  11年 3月15日 福島第1原発事故を受けて埋め立て工事が中断
  12年 6月25日 二井知事が免許延長を認めない考えを表明
      7月29日 山本繁太郎知事が初当選。上関原発計画について二井
            知事の方針を踏襲すると表明
     10月 5日 中電が免許延長を申請
     10月23日 県が中電に延長申請の最初の補足説明を要求。13年
            1月30日まで計4回、繰り返す
  13年 3月 4日 山本知事が県議会代表質問で、可否判断を1年程度先
            送りすると表明。不許可方針から転換
      3月19日 5度目の補足説明を中電に要求。回答期限を14年4
            月11日に設定
  14年 2月25日 村岡嗣政知事が就任
      4月14日 5度目の補足説明の回答文書が中電から県に届く
      5月14日 村岡知事が6度目の補足説明を中電に要求し、可否判
            断を先送り。回答期限を15年5月15日に設定
  15年 5月18日 6度目の補足説明の回答文書が中電から県に届く。中
            電が2年8カ月の免許延長を県に申請

山口知事「申請 違和感ない」 上関原発埋め立て免許延長再申請

 村岡嗣政知事は18日、上関原発の埋め立て免許延長の再申請や6度目の補足説明の回答に関して記者団の質問に答えた。主なやりとりは次の通り。

 ―免許延長の再申請にどう対応しますか。
 公有水面埋立法に基づき、当初の延長申請分と併せて速やかに審査する。延長可否の判断については一定の時間が必要だが、再び延長を求めた中電の対応に違和感はない。現在の期限での工事完了は難しく、延長を求めるのは当然のこと。(中電の)主張の中身を精査して判断する。

 ―補足説明を繰り返し求めることに批判もあります。
 判断材料を整える作業をし、国の上関原発の位置付けの説明を求めてきた。判断できる材料があれば許可、不許可の判断をする。なければ再度、補足説明を求めることもあり得る。

 ―国は、原発エネルギー比率を20~22%にするという方針を出しました。
 エネルギー政策は国の専管事項だが、国の議論のなかで原発の新増設については明確なものはない。国の重要電源開発地点としての位置付けが変わらないか、しっかりと精査していく。

専門家、法骨抜き指摘 上関原発埋め立て免許延長再申請

 上関原発の公有水面埋め立て免許の延長申請で、申請から2年7カ月余りたってなお可否を判断しない山口県と、10月の期限切れを前に免許延長を再申請した中電の対応について、行政手続きの専門家に聞いた。

 広島大大学院社会科学研究科の横山信二教授(行政法)は、福島第1原発事故から2年後の2013年に故山本繁太郎前知事が判断を先送りした際、政府の原子力政策自体が不透明だったことを理由に「違法とまでは言えない」としていた。

 だが、上関原発を含む新増設の方向性は依然として見えない状況だ。このまま村岡嗣政知事が判断の先送りを続ければ、「免許の効力を維持するために補足説明を繰り返す対応で、公有水面埋立法の趣旨が骨抜きになる」と指摘する。

 中電は今回の再延長申請で08年10月の取得から最長で約9年8カ月間、免許を持ち続ける可能性が出てきた。愛媛大法文学部の本田博利・元教授(行政法)は「工事を再開できる見通しも立たないのに、免許を長年独占することに問題がある」と強調。申請を取り下げるべきだと訴える。(門戸隆彦)

(2015年5月19日朝刊掲載)

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