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社説・コラム

社説 米オスプレイ事故 日本での運用 中止せよ

 米海兵隊の垂直離着陸輸送機MV22オスプレイがハワイで着陸に失敗し、乗員に死傷者が出た。原因は不明だが、米国防総省は空軍のCV22オスプレイを東京の米軍横田基地に配備する計画は変更しないという。

 基地の周辺自治体の懸念など歯牙にもかけていない様子だ。その背景には日本政府の危機感の乏しさ、米側への対応の甘さがあろう。今回の事故に関する情報提供や「安全への配慮」を求めただけである。

 オスプレイは主翼両端に回転翼を持ち、その角度を変えることでヘリのような垂直離着陸も固定翼機のような水平飛行も可能だ。ただ、このモードの変換時に機体が不安定になるとされ、2012年にモロッコと米フロリダ州で起きた重大な墜落事故の原因とみられている。

 だが、いずれの事故も機体そのものには問題がなく人為的なミスだったと、米軍は結論付けた。日本政府も安全性は十分確認されたと早々に「安全宣言」を出し、国内での運用に道を開いたものの、「見切り発車」だったとの印象は否めない。

 ハワイの事故の原因が機体に由来するという情報は今のところない。それでも現実に事故は起きた。機体の性能とは別に、風や乱気流などの影響を受けやすいのではないか。「安全性に問題はない」(米国防総省)と胸を張れる段階にはなかろう。

 おとといの記者会見で菅義偉官房長官は「(オスプレイは)安全だと考えている」と明言した。中谷元・防衛相も「米国人兵士が乗っており、米側も安全性を十分に考慮する。運用は米側の判断だ」と言う。

 少なくとも原因が明らかになるまでは国内での飛行中止を求めるのが筋ではないか。日米地位協定に伴う制約はあろうが、日本国民には憲法に定められた生存権があるはずだ。

 MV22は米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)に配備済みだが、飛行中に小型部品を落下させる事故も数回起こしている。人口密集地上空の飛行を避けることや、夜間の飛行制限などの日米合意が有名無実になっているとの指摘もある。

 翁長雄志(おなが・たけし)知事はおととい、MV22の飛行中止を米側に求める意向を明らかにした。当然の対応だ。普天間の運用停止にめどが付かない上、同県名護市辺野古への移設は強行されようとしており、「安全への配慮」だけでは県民は到底納得できまい。

 同じMV22は陸上自衛隊が佐賀市の佐賀空港に配備を計画しているが、果たして大丈夫なのか。山口祥義佐賀県知事が「事故原因を究明できないと、信用するものも信用されない」と述べたのはうなずけよう。山口知事は受け入れの可否について「白紙」の姿勢を崩していない。

 中国地方知事会もきのう、オスプレイの事故の原因と安全対策に関して政府に十分な説明を求める共同文書を採択した。

 MV22は訓練飛行のため、米海兵隊岩国基地(岩国市)を経由する。だが13年に初めて岩国基地に飛来した時と比べると、現在は計画の詳細が明らかにされていないという。CV22が横田基地に配備された後の中国地方への影響も懸念される。

 オスプレイに限らない。あらゆる米軍機の危険な訓練飛行に対し、自治体や住民挙げて中止を求めることが必要だ。

(2015年5月20日朝刊掲載)

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