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不安な生活再び 現実味 30キロ圏の山口県・八島 県や上関町は静観

 四国電力伊方原発3号機が再稼働に向けた国の審査で新規制基準に適合していると判断された20日、半径30キロ圏に入る山口県上関町の離島八島では、原発事故への不安を抱える暮らしの再開が現実味を増した。山口県や上関町は再稼働に向けた動きを静観する構えを見せた一方、八島の住民たちからは避難への懸念や不満の声が漏れた。

 島の一部が伊方原発から30キロ以内にある八島。2013年、全島が緊急防護措置区域(UPZ)に設定され、上関町は避難行動計画をまとめた。島の住民は26人のうち25人が65歳以上。同年10月に初めて実施した避難訓練では、速やかな集合や本土への避難手段となる船の確保などで課題が浮かび上がった。

 八島区長の大田勝さん(77)は「年寄りばかりで、心配が尽きない」と懸念する。「福島第1原発事故を機に伊方原発を不安がる住民もいる。避難の備えが要るような再稼働なら必要ない」と胸の内を明かした。

 上関町の柏原重海町長は、再稼働の手続きに関し「地元の愛媛県と同県伊方町が出す方向性を見守りたい」と話した。九州電力が今夏の再稼働を目指す川内原発では、鹿児島県と立地自治体の薩摩川内市に限った地元同意をめぐり、30キロ圏の他自治体から不満の声が出た。「原発に反対する上関町民の会」の山根善夫共同代表(65)は「町は地元同意権を主張するべきだ」と強調した。

 山口県は18日、国が伊方原発の周辺自治体などと広域避難計画をつくる地域原子力防災協議会への参加を決めた。県防災危機管理課は再稼働手続きについて「防災対策と直接の関係はない」と、上関町と同様に静観する立場を説明した。広島県危機管理課は「情報共有などで愛媛県との連携に努める」とした。

 市民団体「環瀬戸内海会議」(岡山市北区)の湯浅一郎顧問(65)=東京都=は「閉鎖海域の瀬戸内海に事故で放射性物質が流れ出れば、高濃度の汚染が長期間続く恐れがある。漁業文化が失われかねない」と指摘。「広島や山口の住民、自治体は対岸の問題として捉えるのではなく、当事者として声を上げる必要がある」と訴える。(井上龍太郎、村田拓也)

(2015年5月21日朝刊掲載)

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