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社説・コラム

社説 党首討論 首相は疑問点に答えよ

 論戦はかみ合わず、消化不良だったと言わざるを得ない。きのう、今国会で初めての党首討論が行われた。

 平和国家のありようを変える安全保障関連法案の国会審議に向けた前哨戦との位置付けもされていた。物足りなさを感じた国民は多いのではないか。

 討論全体を見通せば、発言時間が多かった首相のペースに終わったとの見方もできよう。  安倍晋三首相と初めて党首討論で相まみえる野党第1党の民主党の岡田克也代表は、法案を正面から批判した。まず追及したのは自衛隊の活動範囲の拡大に伴って隊員のリスクが高まるかどうかである。

 安倍首相は「戦闘が起こった時には活動を中止し退避する。戦闘に巻き込まれることがなるべくない地域を選ぶ」と説明した。しかし、リスクが高まるかどうかはこれまで通り、言葉を濁したように思える。

 両氏の討論におけるもう一つのポイントは自衛隊が活動するエリアについて相手国の領土、領海、領空に広がるのかどうかだった。岡田代表は法案に基づけば当然、踏み込むことになるとして疑問を呈し、「正直に説明を」と求めた。

 しかし、安倍首相は「一般に海外派兵は行わない」と答えるなど微妙な法解釈については明らかに議論を避けていた。

 過去の歴代内閣の党首討論においても、首相側が巧みに論点をすり替え、本質論から逃げるケースは山ほどあった。しかし事は安全保障政策の根幹に関わる話である。国民は誠実な説明を求めていたはずだ。

 自衛隊の活動範囲が具体的にどう広がるのか。新たな安保法制で「戦争に巻き込まることはない」という首相の主張を信じていいのか。腹に落ちた人がどれほどいよう。

 岡田代表にしても攻め手を欠いたきらいはあろう。首相と堂々と渡り合ったのはいいとしても法解釈などの質問に軸足を置いた。国民にとって、より分かりやすいイメージで問題点を浮き彫りにすることもできたのではないか。例えば両氏の討論の最後に出た機雷除去の話は、与党内で意見の差があるウイークポイントである。こうした部分を掘り下げてもよかった。

 この調子で国会論戦が進んでいくとすれば心配である。野党の側も、戦略の練り直しが必要なのではないか。

 維新の党代表に就任したばかりの松野頼久氏も初の党首討論に臨んだ。法案については「8月までに通してしまうことはよもやないだろう。国会をまたぐ覚悟で」と求めた。安倍政権に対して是々非々というスタンスだが、ならば中身にも踏み込む必要があったのではないか。11年ぶりに党首討論に復帰した共産党の志位和夫委員長にしても先の大戦に対する首相の認識に質問を絞った。

 与党側は来週にも安全保障関連法案の審議入りを図りたい意向だ。今国会の最大の焦点である以上、野党側で連携して党首討論のテーマを統一し、あの手この手で首相の考えをただす戦術もあり得るのではないか。

 昨年の与野党合意では月1回の党首討論が行われることになっている。仮に法案が審議入りしたとしても、並行して党首討論を誠実に実行するのは政府・与党側の責務である。

(2015年5月21日朝刊掲載)

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