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原爆症訴訟 新基準外12人認定 東京地裁 胸部大動脈瘤は初

■記者 岡田浩平

 東京都の被爆者たちが国に原爆症認定却下処分の取り消しを求めた訴訟の第3陣(24人)の判決が5日、東京地裁(八木一洋裁判長)であった。国が新基準で認定していない16人のうち12人を原爆症とし、処分を取り消した。うち胸部大動脈瘤(りゅう)を一連の集団訴訟で初めて認めた。

 判決では、原爆放射線と病気との関連について「放射線の影響が及んでいると疑われ、それに沿う相応の研究の成果が存在」する病気は他の証拠との関係を総合検討し、判断する必要性を指摘。爆心地から2キロ以遠で被爆した心筋梗塞や脳梗塞、甲状腺機能高進症、入市の慢性肝炎などを認めた。

 厚生労働省の検討会で認定制度の見直し議論が進む中、幅広い病気や条件を認めた判決は、抜本改善を求める原告側の主張を後押しする形となった。

 一方、救護被曝(ひばく)した悪性リンパ腫の男性(85)ら4人の請求は棄却。また、新基準で認定済みの8人の訴えは却下した。

 2003年から続く集団訴訟で各地の原告は相次ぎ勝訴し、08年に基準緩和へつなげた。09年には国と確認書を交わし一審勝訴で国が認定、敗訴者も国が拠出した基金から解決金が支払われる。今回は29番目の判決で、今月8日に大阪地裁で結審する大阪第3陣の判決が最後になると見込まれる。


<解説>原発被災者 救済へ教訓

■記者 岡田浩平、山本洋子

 原爆症認定集団訴訟の東京第3陣の判決は、原爆放射線と病気との関連について低線量や内部被曝の実態を踏まえるよう求めた。被爆者たちの法廷での訴えは、放射線被害に不安を抱く福島第1原発事故の被災者たちの救済へ教訓になりうる。

 判決後に東京都内であった原告側の報告集会。全国原告団の山本英典団長(78)は「30、40年たって人間の体に被害が表れる事実を法廷で告発してきた。福島の事故でも被爆者の経験が生かされる」と強調した。

 判決では原爆放射線の被曝に関し、残留放射線の作用や内部被曝の可能性も指摘。病気との関連を考える上で考慮する必要があるなどとした。同時に、健康影響について現状では専門家の見解は分かれているが、将来の研究で裏付けられる可能性にも言及した。

 弁護団によると、こうした考えは東京第2陣の地裁判決などでもあった。しかし、個別判断では国が「低線量域では放射線との関連を裏付ける知見がない」と争った心筋梗塞を今回、爆心地から2.0~2.4キロで被爆したケースで認定。3.5キロの脳梗塞、2キロの狭心症も認めており「これまでより1、2歩進んだ判決」と評価できるという。

 広島原爆で爆心地から4キロ地点で被爆した神戸美和子さん(73)=東京都町田市=は甲状腺機能高進症を認められた。「裁判までしなければ被爆の影響を認めてもらえない。福島の人たちには同じ思いを味わってほしくない」。勝訴の余韻が残る会場で、偽らざる思いを口にした。

(2011年7月6日朝刊掲載)

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