×

社説・コラム

社説 伊方原発「適合」 事故時の備え足りない

 広島や山口にも近い四国電力伊方原発(愛媛県)の3号機が再び、動きだそうとしている。新しい規制基準を満たしていると結論付ける「審査書」案を、おととい原子力規制委員会が了承した。

 四国電力は年内の再稼働を目指すという。沿岸の自治体は操業の安全はもとより、事故を前提とした対策でも万全の措置を求めていくべきである。

 緊急防護措置区域(UPZ)である半径30キロ圏だけをとっても、入っているのは愛媛県の市町だけではない。山口県上関町の離島、八島が含まれている。その意味は重い。

 先に「適合」判断を受けた九州電力川内(せんだい)原発1、2号機(鹿児島県)では、地元の同意は立地先の薩摩川内市と県だけで足りるとした。こうした強引な手法を繰り返してはならない。

 瀬戸内海の南西端に突き出す半島の付け根に、この原発は位置している。もし重大な事故が発生し、放射性物質が海に漏れ出すようなことがあれば、その影響が広範囲に拡散する恐れもあるだろう。単に直線距離では被害が想定しきれない点も、考慮に入れておく必要がある。

 そもそも今回の「審査書」案で忘れてならないのは、規制委が住民の避難計画を審査の対象から外していることだ。

 とりわけ原発の西側に住む約5千人の不安は強かろう。避難道路が封鎖され、「陸の孤島」状態に置かれる可能性さえあると指摘される。空路や海路での避難を想定しているというが、これまでの防災訓練では悪天候のためにヘリや船舶が救出にたどり着けなかったことがある。さらに一帯の島々も避難ルートが限られるのは変わらない。

 もう一つ気掛かりなのが、敷地北側を走る活断層群の「中央構造線断層帯」のリスクをどう考えるかである。マグニチュード8クラスの大地震を引き起こすという想定が、かねて国からも示されている。

 さすがに規制委も不安視はしたのだろう。想定される地震動を引き上げるよう四国電力に求め、耐震補強工事などの追加策が行われた。

 しかし、万全といえるのか。実際に巨大な活断層群が動けばどうなるか見通せないとして、四国電力の措置を「まだ不十分だ」とみる専門家もいる。

 規制委が正式な審査書を完成させ、正式に適合と判断するのは夏になりそうだ。しかし再稼働は一筋縄ではいくまい。

 何より自治体や住民の理解を本当に得られるのかどうかだ。四国4県の地元紙と共同通信がことし初めに行った世論調査では伊方原発の再稼働には約60%が反対し、賛成の約36%を大きく上回っていた。愛媛新聞の調査では安全性の不安を訴える回答が約9割に上ったという。規制委が了承したとしても、住民が納得するとは限るまい。

 再稼働を認めない地裁の仮処分決定が出た関西電力高浜原発3、4号機などと同じく、伊方原発でも住民による運転差し止め訴訟の審理が続いている。その行方も注視すべきだ。

 「あり得ることは起きる、と考えるべきである」。福島第1原発の政府事故調査委員会が得た教訓の一つである。住民にとって、重大事故に対する備えが十分ではないままの再稼働など許されはしない。

(2015年5月22日朝刊掲載)

年別アーカイブ