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社説・コラム

【解説】核の非合法化 溝深く 議長 会議の決裂回避

 5年に1度の核拡散防止条約(NPT)再検討会議で、タウス・フェルキ議長が22日示した最終文書案は、核軍縮をめぐる今後の方策内容が当初案から大幅に後退した。核兵器に安全保障を委ね、法的禁止を強く警戒する保有国と、非人道性を訴えて廃絶を急ぎたい非保有国の溝を埋め切れなかったのが要因だ。(ニューヨーク発 田中美千子)

 前回会議の成果と見なされていたのが、合意した最終文書で、核兵器の非人道性を明記し、核兵器禁止条約も「交渉提案に留意」と記述された点だ。以後、非人道性をめぐる国際的な認識が一気に高まり、非保有国の政府や非政府組織(NGO)を中心に、その悲惨さを理由に非合法化を目指す動きも強まった。しかし保有国は今回、流れにあらがうように「草案に非人道性の記述が多すぎる」「核兵器廃絶の期限など切れない」と口々に反発してきた。

 その結果、第1委員会(軍縮)がまとめた草案段階まで残っていた、核兵器禁止条約の文言は議長案で削除された。核使用が国際人道法に合致しないとの観点から法に従う必要性を確認した部分も落ちた。核軍縮の停滞を指摘した段落は丸ごと消え、さらなる軍縮を迫る文言も軒並み弱まった。最終文書が採択できなければ会議は決裂する。最悪の事態を避けるため、議長が保有国に歩み寄った格好だ。

 最終文書案では、法規制を含めた「効果的な措置」を特定するため、9月に始まる国連総会に作業部会を設け、検討を始めるよう勧告した。全ての国、さらにNGOも参加でき、法規制の後押しにはなり得る。前回会議の最終文書にない提案だ。ただ、これも議長案は「総意による運営」を推奨しており、保有国を議論に巻き込める半面、反対されれば規制は実現しえなくなる。

 「核兵器なき世界」を掲げたオバマ米大統領の就任で核軍縮に追い風が吹いていた5年前に比べ、国際情勢は確かに厳しさを増している。今回は、被爆70年の節目に重なり、広島、長崎からも多くの被爆者が会議を後押ししようと海を渡った。年老い「もう最後かも」との声も多く聞かれた。その期待を裏切る後退ぶりは、保有国と非保有国の対立構図が鮮明なNPT体制の限界さえうかがわせた。核兵器廃絶の悲願は見通せないままだ。

(2015年5月23日朝刊掲載)

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