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鋼材補強で耐震化 決定 原爆ドーム 今秋から3ヵ所

 広島県物産陳列館として完成し100年を迎えた世界遺産・原爆ドーム(広島市中区)の初の耐震工事について、市は22日、鋼材で補強する工法の採用を決めた。芸予地震で想定される最大震度、6弱で崩壊する危険性がある3カ所が対象。今秋、着工する。(川手寿志)

 市は、この日、文化財や工学の専門家たちでつくる原爆ドーム保存技術指導委員会(13人)を中区で開催。補強効果が高く、ドーム外観への影響が少ないとして、北西側1カ所と東側2カ所の壁に内側から鋼材を当てる地震対策を提案した。委員から大きな異論は出なかった。

 一方で、損傷の危険性が指摘されていた西側の壁2カ所の対策は決まらなかった。市側は強度を高めるエポキシ樹脂の注入を提案したが、委員から「高度な技術を取り入れると建物の構造がアンバランスになり、逆に破壊につながる」「可逆性がなくなる」などと反対意見が相次いだ。市は検討を続けるという。

 決まった3カ所については、詳しい設計を始め、6月15日開会予定の市議会定例会に提出する補正予算案に、耐震工事費を盛り込む方針。文化庁に現状変更申請をし、9月以降に工事を始める構えだ。

 市はこれまでに1967、89、2002年度の3回、鉄骨の補強やコンクリート劣化補修などの保存工事をした。市公園整備課は「できる限り、被爆の実態を伝える今の姿を残しながら、必要な対策を取りたい」としている。

【解説】文化価値保全に配慮

 原爆ドームにとって初となる耐震化の工法を検討してきた市は、壁の内側から鋼材を当てる最小限の補強にとどめる判断をした。建物や地面に手を加えるのを避け、文化財としての価値を損なうことなく、末永く保存するバランスを重視したためである。

 市は2007年度、保存技術指導委員会に、専門家でつくる耐震対策部会を設置。基本方針は①原則、視覚上の外観変更はしない②必要最小限の対策③極力、可逆的―として、調査、研究を進めてきた。

 壊れかけた建物の耐震化という、難題の検討は曲折を経た。れんが造りのドームは原爆により大きく損傷し、強度のばらつきが大きい。さらに完成は100年前で、れんがなどの品質も一定ではないという。専門家からは、外観が変わらず効果の大きい免震工法を推す意見もあったが、市は結局、「地面を掘るのは尊厳性を損なう」として見送った。工法の決定は予定より1年遅れた。

 あの日から70年。原爆ドームの老朽化は止まらない。この日の保存技術指導委員会では、対策が必要な5カ所のうち、2カ所を対象にしたエポキシ樹脂の注入案は「可逆性がない」として待ったがかかった。被爆の惨禍を無言で訴えるヒロシマの象徴―。その保存方法は、今後も課題として残る。(川手寿志)

(2015年5月23日朝刊掲載)

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