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核軍縮文書 採択できず NPT会議が決裂 中東非核化で対立

 米ニューヨークの国連本部で4週間にわたり開かれた核拡散防止条約(NPT)再検討会議は最終日の22日、今後5年間の核軍縮の進め方などを盛り込んだ最終文書を全体会議で採択できず決裂、閉幕した。NPT非加盟で核兵器保有が確実視されるイスラエルの非核化を念頭にした中東非核地帯構想などの項目で、加盟国の対立が解消しなかった。被爆70年の節目に、被爆者たちが切望する「核兵器なき世界」へ、国際社会は成果を残せなかった。 (ニューヨーク発 田中美千子)

 タウス・フェルキ議長(アルジェリア)がこの日未明に配った最終文書案のうち、中東非核化に向けた国際会議を2016年3月1日までに開くよう国連事務総長に委ねるとした部分が午後の全体会議で焦点となった。米国のローズ・ガテマラー国務次官(軍備管理・国際安全保障担当)は、擁護するイスラエルへの配慮をにじませ「非現実的で実現不能」と、真っ先に文書案を拒否。特にエジプトが、この文言修正を拒んだと名指しで批判した。最終文書の採択は全会一致が原則のため、決裂が決定的に。英国やカナダも米国に同調した。

 これに対し、アラブ諸国の有力国のエジプトは、中東非核化に向けた合意を米国が阻んだと応酬。核兵器を含む大量破壊兵器のない地域をうたう「中東決議」が採択された1995年の再検討会議から20年を経ても非核化が実現していないと強調し「きょうはNPTにとって悲しい日となった」と嘆いた。

 核軍縮については、核兵器の保有国と非保有国の間で核兵器の非合法化をめぐる溝の深さが露呈した。最終文書案では、第1委員会(軍縮)の草案まで残っていた核兵器禁止条約の文言が削除された。この日の全体会議では、非保有国から今後の核軍縮の進め方をめぐって「前回会議で得た内容より後退した」「期待に沿わない」と、不満を訴える声が相次いだ。

 一方、核兵器の非人道性の議論を主導する国の一つオーストリアは、会議に提出した共同声明「人道の誓約」の賛同国が107カ国に膨らんだと表明。核兵器の禁止、廃絶に向けた「法的な隙間」を埋める効果的な措置を追求すると宣言した。NPT枠外で核兵器の法的禁止に向けた動きが活発化する可能性もある。

 再検討会議は先月27日に開幕した。最終文書を採択できなかったのは、2005年の前々回以来。10年は核軍縮などの64項目の行動計画を柱とする最終文書に合意した。フェルキ議長は全体会議で「進展もあったが、主要な論点で多くの異なる意見が残った」と口惜しんだ。日本政府代表団の杉山晋輔外務審議官も終了後の記者会見で「極めて残念だ」と述べた。

NPT体制
 1970年に発効した核拡散防止条約(NPT)に基づく国際安全保障体制。NPTは核保有国を第2次大戦の戦勝国でもある米国、ロシア、英国、フランス、中国に限定し、他の国の核兵器保有を禁じた。将来的な核廃絶を理念とし、核保有国に核軍縮義務を課す一方、非核保有国には原子力平和利用の権利を認めた。核保有を5カ国に限ったことには「不平等」との批判がある。インド、パキスタンやイスラエルはNPTに加盟せず、核兵器を開発・保有。核開発を進める北朝鮮は2003年にNPTからの脱退を表明した。

(2015年5月24日朝刊掲載)

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