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社説・コラム

【解説】現体制の限界を露呈

 NPT再検討会議は22日、加盟国間の対立からあえなく決裂し、核兵器を持つ国を中心に、各国の思惑と利害が複雑に絡み合うNPT体制の限界を露呈した。ただ軍縮の停滞にしびれを切らした非保有国の有志国や非政府組織(NGO)が見切りをつけ、NPT枠外で核兵器禁止の動きを加速させる契機になるとの見方も出ている。

 決裂の「引き金」とされた中東問題は、1995年の再検討会議から実に20年間、解決できておらず、NPT体制の信頼性を損なわせている一因だ。また今回は、核兵器を持つ国と持たない国との対立構造も一層鮮明になった。

 米国、ロシア、英国、フランス、中国の5カ国だけに核兵器保有を認め、「不平等条約」の批判がつきまとうNPT。現状打破に向け、有志国は2010年の前回会議以降、核兵器の非人道性の議論を仕掛け、法的禁止を訴える声を国際社会に浸透させてきた。

 今回の最終文書の作成過程で、第1委員会(軍縮)の草案では、廃絶に向けた法的枠組み制定の検討を促し、その例に「核兵器禁止条約」も挙げていた。保有国が強く反発する課題を議論の俎上(そじょう)に載せた意味はあった。ただ非人道性という痛いところを突かれた保有国が全力で否定に走るきっかけにもなった。

 一方、反核NGOの核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)のアジア太平洋担当ティム・ライト氏は、核兵器の禁止、廃絶へ「効果的な措置」の追求を誓うオーストリアの文書に注目。賛同国の広まりを「今回会議の成果」と指摘する。「会議は決裂したが、楽観的に構えていい。有志国が近く、核兵器禁止に向けた外交交渉のプロセスを始めるはずだ」とみる。

 再検討会議後の国際社会の動きに注視したい。「一日も早い核兵器の廃絶を」。老いた体にむち打ち、現地を訪れて核兵器の非人道性を直接訴えた被爆者の切実な思いと声を無駄にしてはいけない。唯一の被爆国でありながら、米国の「核の傘」の下にある日本も、その議論に正面から向き合う必要がある。(田中美千子)

(2015年5月24日朝刊掲載)

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