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社説・コラム

保有国 禁止条約を警戒 NPT会議決裂の背景や今後 広島平和研究所・水本副所長に聞く

 NPT再検討会議が決裂した背景や、今後の核兵器廃絶の見通しについて、広島市立大広島平和研究所の水本和実副所長(核軍縮)に聞いた。(岡田浩平)

 ―結果をどうみますか。
 残念だし、悲しいし、腹立たしい。最終的な決裂点は中東問題かもしれないが、核兵器の非人道性を理由に廃絶を訴えるうねりに対し、米国をはじめ保有国が「軍縮のやり方は自分たちで決める」という意思をむき出しにしてきた。核兵器禁止条約や、期限を切った廃絶に明確に反対した。非保有国に主導権を渡さず、自分たちのペースで段階的にやるのだと。協調的でない面が根底にあった。

 ―合意できなかった最終文書案では今後の軍縮策が後退していましたね。
 保有国は核兵器禁止条約に最も神経質だった。2010年の前回は合意した文書に文言があったが、今回の案にはない。警戒心の原点なのだろう。非人道性に触れるのも嫌だったのでは。決裂するところを探していたともとれる。

 ―政治指導者らに被爆地訪問を呼び掛ける記述が中国の働き掛けで削除された事態をどうみましたか。
 呼び掛け自体はだれも反対せず、日本政府もポイントを稼げると思っていたのだろう。ただ被爆地で核兵器の非人道性を理解してもらった上で、軍縮につなげる明快な理念とプランがあってこそ意味がある。米国や中国のような歴史認識を持つ国もあり、被爆地訪問はある意味、政治問題になりかねない側面もある。

 ―今後の核軍縮の見通しはどうですか。
 大幅に後退しないだろうが、どういうタイミングでどれだけ削減するか先が見えない。国際情勢が不安定になると、そのたびに削減のペースも落ちる。米ロ関係が悪化しており、イスラエルの核問題も手つかず。悲観論に立つ必要はないが、ばら色の展望もない。

 ―NPTの下では軍縮は進まないという考え方も広がるのでは。
 核不拡散や、原子力の安全性の維持もあり、NPT全部は否定できない。最小限の防波堤として維持し、軍縮の条約としては機能していないのを視野に入れつつ、核兵器の非合法化をプラスアルファとして示せればいい。

 非保有国が発表してきた核兵器の非人道性をめぐる共同声明は、賛同国を増やす過程で非合法化のメッセージが弱まった。それをもう一度、核兵器禁止条約、非合法化を目指すと明確にし、国際社会が団結していく方向へ強めてもいいのではないか。核の傘の下にいる国を巻き込もうとは考えずに、非保有国が市民社会を束ね、保有国側に突き付けていけばいいと思う。

 ―被爆地の役割は。
 ここで挫折してはいけない。被爆体験を通じて、核兵器の危険性を訴え続けていくべきだ。被爆地訪問を呼び掛ける上では、「間違った戦争の結果、最後に核が使われ、市民も巻き込まれた。戦争を美化する気は毛頭ない」と日本の問題とセットでメッセージを出せば、説得力は増す。

(2015年5月24日朝刊掲載)

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