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米空母艦載機部隊 迫る岩国移転 見えぬ負担軽減効果

■編集委員 山本浩司 

 2014年までとされる米空母艦載機部隊の米海兵隊岩国基地(岩国市)への移転期限が迫る。日本政府は、米海軍厚木基地(神奈川県綾瀬市など)周辺への負担軽減が目的と説明してきた。しかし、在日米海軍への取材からは軽減の大きな効果が見えてこないばかりか、騒音被害の拡大懸念が強まる。

 騒音被害を拡大する可能性が高いのが艦載機の陸上空母離着陸訓練(FCLP)だ。

 米海軍横須賀基地(神奈川県横須賀市)を母港とする原子力空母ジョージ・ワシントンの艦載機(ジェット機)は現在、硫黄島の「暫定施設」で訓練を実施。在日米海軍は厚木基地から約180キロ以内を主張しているが、同島までは約1200キロある。

 艦載機移転に伴い、岩国基地周辺に「恒常的な施設」を建設することで日米両政府は合意。しかし、建設候補地選定期限の「2009年7月かできるだけ早い時期」は既に過ぎている。

馬毛島が候補地に

 6月21日にワシントンで外務、防衛担当閣僚の日米安全保障協議委員会(2プラス2)を開催。発表した共同文書に、岩国基地から約400キロ離れた鹿児島県の馬毛島が、移転検討対象として明記された。

 それに先立つ7日、同海軍は硫黄島でのFCLPを報道陣に公開。その際、同海軍のピーター・ラッシュ副司令官は、中国新聞の取材に対し「馬毛島の名前は報道で知った」としながら「訓練施設の周辺に緊急着陸できる場所があれば、岩国からの距離は問題ではない」と発言。180キロ以内に自衛隊の航空基地が二つある同島が、同海軍にとっても候補地となることを認めた。

 馬毛島の周辺自治体は施設建設に反対し、先行きは不透明。だが、日本政府は、自衛隊の飛行場施設として建設し、FCLPにも使用するという「硫黄島方式」での実現を視野に入れる。

 今月2日、小川勝也防衛副大臣は種子島の長野力・西之(にしの)表(おもて)市長らに初めて説明。その際「新幹線の車内並みの70デシベルの騒音区域はかからない」とした。しかし、タッチ・アンド・ゴーは訓練期間中に「100人のパイロットによって3千回から6千回繰り返される」(同海軍)。加えて、艦載機部隊で構成する第5空母航空群のFA18は、全て従来機より騒音が大きいと指摘されるスーパーホーネットに転換された。総計44機で、その騒音に心配は高まる。

厚木も継続使用か

 これと引き換えに、厚木基地周辺への騒音削減効果は期待される。しかし、同基地周辺への負担軽減について大きく疑問符を付けているのが、着艦資格取得訓練(CQ)だ。

 CQは、FCLPに続く昼夜の訓練で、洋上の空母の飛行甲板へのタッチ・アンド・ゴーと着艦で構成される。

 同海軍は6月16日、中国新聞を含む一部メディアに、野島崎(千葉県)の南方に広がるチャーリー区域と呼ばれる訓練海域で、ジョージ・ワシントンのCQを公開した。

 その際、第5空母航空群のダニエル・ケーブ司令官は、中国新聞の取材に「岩国から数百キロを飛行してのCQ実施は困難」と明言。岩国移転後もCQが厚木基地を経由して行われる可能性を示唆した。つまり、移転後も、CQに伴う騒音は従来通りということになる。

 厚木基地問題に取り組む相模原市の金子豊貴男市議は「CQに伴う騒音は、洋上の空母と往復する飛行ルート下の相模原市や藤沢市にも広がる。特に基地滑走路運用時間の午後10時以降の騒音が問題だ。今回も午後11時や午前0時すぎの飛行があった」と指摘する。基地から近い地域では飛行高度が低いため、騒音レベルは高い。

 飛行高度による差はあるだろうが、同様の騒音が、岩国基地とFCLP訓練施設を結ぶ飛行ルート下にも及ぶ可能性がある。

 このように、艦載機移転に伴う騒音問題は厚木・岩国両基地周辺だけの問題ではい。

 馬毛島が訓練施設候補地になったいま、関東、中国、四国、九州地方に及ぶ課題となった。関係する可能性がある自治体が、情報交換などで連携することも必要だ。

硫黄島での陸上空母離着陸訓練(FCLP)の問題点
 訓練中の艦載機は、タッチ・アンド・ゴーの機体への衝撃を軽減するため、訓練に必要量の燃料だけを搭載する。硫黄島は厚木から1200キロ離れた孤島で、滑走路は1本。そのため、訓練中に事故やトラブルで、滑走路が使えなくなった場合、着陸する施設がない。米海軍は規定で訓練施設が基地から100カイリ(約180キロ)以内であることを定めており、同島の施設は「暫定施設」と位置づけられている。

(2011年7月10日朝刊掲載)

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