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社説・コラム

社説 安保法案審議入り 事の本質 具体的に語れ

 安全保障関連法案がきのう国会で審議入りした。戦後の日本では個別的自衛権の枠内で自衛力を保持する政府の憲法解釈が定着してきたが、大きな変更が加えられようとしている。

 安倍晋三首相は衆院本会議で「政治家は平和を願うだけではなく、果敢に行動していかなければならない」と述べた。政治生命を懸けると受け取っていいのだろうか。ただ、今後まともな質疑が行われるのか憂慮すべき兆しもあるようだ。

 政府側には議論を回避する姿勢が早くも見える。一つ一つ丁寧な議論に努め、間違っても強行採決に持ち込むことがあってはなるまい。法案の中身もさることながら、首相の政治姿勢が問われている。

 議論回避に映る一つに自衛隊員のリスクの問題があろう。

 首相はきのうの本会議で「それでもリスクは残る」と述べ、この問題について明言しないこれまでの姿勢を一部、軌道修正したようだ。とはいえ野党側が指摘する危険の増大については、依然として認めなかった。

 最近の閣僚らの発言も併せて考えると、事の本質を誠実に語ろうとしているとは思えない。中谷元・防衛相にしても22日の記者会見で「法整備で得られる効果はリスクよりもはるかに大きい。日米同盟の抑止力で安全性も高まる」とまで述べた。首をかしげたくなる。

 この関連法が成立すれば集団的自衛権の行使が可能となり、外国軍への後方支援も「現に戦闘行為を行っている現場」以外では行うことができる。従来より前線に近づくことは十分に考えられよう。国連平和維持活動(PKO)でも、治安維持や駆け付け警護が可能になる。

 つまり隊員の活動の範囲は確実に広がる。そのリスクをことさら少なく見せようとするなら国会審議や世論をミスリードすることにつながろう。

 法案の根幹に関わる重大な点というのに首相の感覚のずれは見過ごせない。おととい「木を見て森を見ない議論が多い」と反論した。「自衛隊員のリスク以前に国民のリスクが高まっている」という理屈も唱えたが、筋違いだろう。隊員のリスクと国民のリスクをてんびんに掛ける意味が分からない。

 国会審議では、まず自衛隊がどんな場面でどんな活動をするのか、分かりやすく説明すべきだ。リスクに関しても想定される一つ一つのケースでつまびらかにすることが求められる。

 例えば外国軍との共同行動を行った際、自衛隊だけの判断で活動を中止できるものかどうか。そうした本質を考えるべきではないか。その上で、危険の増大を覚悟してでも取り組むべき法整備だというのなら、そうはっきり説明してもらいたい。

 「他国の戦争に巻き込まれることは絶対にあり得ない」と首相は繰り返してきたが、これも疑わしい。日米同盟強化によって抑止力が高まるとしても、軍事的な貢献は当然、米国から求められよう。その反作用をあまりにも軽視してはいないか。

 きょうからの特別委員会の審議では、野党の存在価値が問われよう。民主党と維新の党は、集団的自衛権行使についての立ち位置が微妙に異なる。少なくとも、政権が拙速に審議を進めようとすることに異を唱える点で共闘を求めたい。

(2015年5月27日朝刊掲載)

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