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タクトに託す平和の祈り 22年ぶり広島公演 露の巨匠フェドセーエフ氏

 ロシアの世界的指揮者ウラディーミル・フェドセーエフ氏(82)が27日、広島市で22年ぶりにタクトを振った。前回公演で原爆の惨状に触れ、本人の強い希望で実現した広島平和チャリティーコンサート。自らも戦争の悲惨さを知る巨匠が、祈りにも似た美しい音色を被爆70年の地に響かせた。

 約1600人で埋まった広島文化学園HBGホール(中区)。フェドセーエフ氏は、40年以上率いるチャイコフスキー・シンフォニー・オーケストラ(旧モスクワ放送交響楽団)の100人を指揮し、チャイコフスキーの3曲を奏でた。冒頭の弦楽セレナーデには広島交響楽団の8人も参加。続く瞑想(めいそう)曲は世界的バイオリン奏者ワディム・レーピンの圧巻の表現で魅了した。

 「被爆者は亡くなっていくが、悲劇を決して忘れてはいけない」。並々ならぬ思いは、幼少期の体験とつながる。故郷レニングラード(現サンクトペテルブルク)は第2次大戦中、約2年半にわたってドイツ軍に包囲され、多くの住民が餓死した。学校には暖房すらなく「今思い出しても恐ろしい」と振り返る。

 この日のメーンで届けた交響曲第6番「悲愴(ひそう)」にはそんな感情を織り交ぜた。戦後、生きる糧となった音楽。「悲しみや喜び。戦争を体験した私の気持ちが反映されている」。前回も被爆者にささげた特別な曲で締めくくると、拍手喝采に包まれた。

 今回の公演は、体調不良で一時来日さえ危ぶまれる中、福岡(26日)と東京(28日)公演の合間に実現。フェドセーエフ氏の熱い思いに応え、官民一体の実行委員会が準備した。協賛企業は150社。平和を願う気持ちが集結したコンサートの収益は、原爆関連施設や広島土砂災害の支援に役立てる。(余村泰樹)

(2015年5月28日朝刊掲載)

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