×

ニュース

戦友の魂にささげる 新藤兼人監督「一枚のハガキ」 広島で8・6公開

■記者 串信考

「家の破壊」悲しみ描く

 広島市佐伯区出身の新藤兼人監督が、自身の戦争体験を基に製作した映画「一枚のハガキ」。8月6日、同市内などで公開される。上官の引いたくじが生死を分けた体験。「くじ一つで戦地に送られた兵士がいたから自分は生き残った」。負い目は99歳の今も癒えていない。「戦死者の魂」にささげる思いが込められている。

 新藤監督は太平洋戦争中の1944年に召集され、呉海兵団に入隊。所属した100人の部隊のうち、くじで60人がフィリピンに送られたが、途中潜水艦に攻撃され輸送船は沈没したという。

 「なぜ彼らは死んで、自分は生きているのか。僕の原点に触れる問題を最後の作品にしたいと思った」

 くじに外れた主人公の2等水兵松山啓太(豊川悦司)が、フィリピンに送られる60人のうちの一人から見せられた妻のはがき。これが映画のモチーフになっている。

 「今日はお祭りですが、あなたがいらっしゃらないので何の風情もありません」

 敗戦後、生き残った松山は、はがきを見せた戦友の妻友子(大竹しのぶ)を訪ね、戦争に翻弄(ほんろう)された女性の悲しみを知らされる。

 「戦争は兵士が死ぬだけではなく、その家をも破壊する。戦争で何人の死者が出たとよく報道されるが、耳に慣れてしまって、家族が破壊されたことに思いが至らなくなってはいないだろうか」

 ラストシーン。松山と友子は、水おけを下げた天秤棒(てんびんぼう)を肩に道を上って行く。代表作「裸の島」をほうふつとさせる場面だ。

 「二人は戦争で生活をめちゃくちゃにされたけど、麦を育てて生き直す。単に生活を立て直すというのではなく、亡くなった人の魂を背負って生き抜くということ。僕もいずれ亡き戦友のところにゆくけど、この映画一本を持ってゆきたい」

(2011年7月16日朝刊掲載)

年別アーカイブ