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爆心地1キロ 営み生き生き 広島 復元CG映画お披露目

 原爆投下前の広島市中心部の姿をコンピューターグラフィックス(CG)で復元してきた西区の映像作家田辺雅章さん(77)が、17年間に及ぶ制作活動の集大成となる作品を5日、中区袋町の合人社ウェンディひと・まちプラザ(旧まちづくり市民交流プラザ)で初公開した。街並みのにぎわいや人びとの暮らしの営みまで丁寧に表現し、全てを奪った原爆の悲惨さを伝えている。6、7日も、同じ会場で無料上映会がある。

 「知られざるヒロシマの真実と原爆の実態」と題した62分の記録映画。広島県産業奨励館(現原爆ドーム)東隣にあった田辺さんの生家に始まり、商店や旅館が立ち並ぶ爆心地付近、県庁があった水主町(現中区)、広島城一帯など、爆心地の半径1キロ圏をCGで精緻に表している。道端で紙芝居屋を取り囲む子どもや、軒先で世間話をする女性たちが被爆前の暮らしの息遣いを伝える。

 小網町(同)周辺の遊郭「花柳街」や基町(同)の陸軍施設も取り上げ、犠牲者数さえ明らかになっていない実態にも触れた。被爆後の惨状は絵や写真で表現し、50人近い被爆者の証言映像を組み合わせた。

 この日は試写会と一般向けの上映会があり、涙を流しながら鑑賞する人も。被爆者として出演した広島大名誉教授の北川建次さん(80)=佐伯区=は「被爆前の映像が懐かしかったし、あの日の記憶もよみがえってきた。核兵器保有国の人々にも見てほしい」と話した。

 田辺さんは原爆で父母と弟を失い、自らも入市被爆した。「制作は被爆前の爆心地を知る自分の宿命だと思ってきた。地域の歴史や文化まで葬り尽くした原爆の実態を多くの人に伝え、記憶の風化に歯止めをかける一助になれば」と願う。6、7日の上映時間は午前10時、午後1時、2時半の各3回。(田中美千子)

(2015年6月6日朝刊掲載)

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