×

社説・コラム

社説 G7サミット閉幕 伊勢志摩へ指導力示せ

 ドイツで開かれた先進7カ国(G7)首脳会議(サミット)が幕を閉じた。打ち出した宣言は確かに盛りだくさんだ。

 南シナ海での岩礁埋め立てやウクライナ危機に強い懸念を表明し、中国やロシアの力による「現状変更の試み」を非難した。北朝鮮の核・ミサイルや拉致問題にも踏み込んだ。

 おおむね日本が想定した通りの結果といえる。安倍晋三首相は閉幕後の会見で「法の支配、主権、領土の一体性を重視する日本の立場は明確で一貫している」と述べた。G7で結束してメッセージを発信した意義を強調しておきたいのだろう。

 ただ内実はどうか。確かに主要国は中ロ包囲網などで結束したように映るが、危機感に温度差があるのは否めない。

 中国へのけん制にしてもそうだ。首脳宣言の厳しさとは裏腹に、欧州諸国は中国が主導するアジアインフラ投資銀行(AIIB)に参加し、安全保障というよりは経済的つながりを重視している。アジアの海での中国の暴走を、どこまで深刻に受け止めていよう。

 一方の対ロシアではクリミア併合を「違法」とし、制裁継続で一致したものの、北方領土問題を抱える日本は相手を刺激したくないのが本音だ。その弱腰が欧米には不満だろう。

 中ロ両国はこうした温度差を見透かしていよう。今回のG7の結束も、見掛け倒しと映っているのかもしれない。それぞれ早速、反発を示した。

 とりわけ中国外務省は「埋め立ては中国の主権内のことだ」として宣言を意に介さない。中国共産党系列の新聞は、地理的、心理的にも南シナ海から遠い欧州を日米は引き込めないと主張している。

 現実問題としてG7の枠組みだけで、どれほどの効き目を持つかは疑わしい。毎年首脳が集まっても成果が出せないなら、存在感を低下させるだけだ。目の前の思惑ばかりを優先するのではなく、たとえ自国の利益に直結しない問題であっても積極的に関わり、解決する姿勢が各国に求められよう。

 来年は日本がサミットの議長国となる。首相は先週末、会場に選んだばかりの伊勢志摩の風光明媚(めいび)を、各国首脳に誇らしげに語ったという。ただ国際政治の厳しさに向き合うというサミットの本質を見失ってはならない。今度こそ実効性のある中身にする必要がある。

 次回サミットは存在意義が問われよう。まさに瀬戸際の会合になると覚悟すべきだ。日本にとっては向こう1年、中ロとどう向き合うかが重要になる。

 ロシアは昨年、サミットから除外されて今に至る。だが蚊帳の外に置いて非難するだけでは明らかに限界がある。

 プーチン大統領の訪日が12月を軸に調整されているという。日本がロシアとパイプを持つことの表れでもあろう。欧米との橋渡し役を議長国として果たせるかもしれない。G8の枠組みの復活は時期尚早としても、オブザーバーとしてプーチン氏を伊勢志摩に招くぐらいの意気込みは必要ではないか。

 中国の習近平国家主席に対してもサミットの議論に巻き込む働き掛けをしてもいい。

 多極化と厳しさを増す国際情勢の中、日本のリーダーシップと外交力が試されてもいる。

(2015年6月10日朝刊掲載)

年別アーカイブ