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社説・コラム

『潮流』 サミット劇場

■報道部長・下山克彦

 久々にどきどきしながらテレビ画面に見入った。語っていたのは安倍晋三首相。5日の主要国首脳会議(サミット)開催地発表の場面だ。各国首脳に平和への思いを共有してもらうためにも、被爆地での開催を願った広島にとっては残念な結果となった。

 首相の口をついて出たのは「伊勢志摩」。事前に把握していたというと格好がいいが実は発表のわずか数分前だった。それも絶対の確信があったわけではない。どのメディアも先行できず、徹底した情報管理を感じさせた。

 発表の10日ほど前、地方紙7紙の社会部長や報道部長が集まる会議に出席した。仙台、新潟、名古屋、神戸など、それぞれが発行エリアに候補地を抱え、しかも特ダネを狙う現場責任者である。情報交換の名の下の腹の探り合いが続いたが、各社ともさしたる情報はない。皆で天を仰いだものだ。

 その後も推測、臆測だけは続々と届き、裏付けにてんてこ舞い。情報源は国会議員や官僚などさまざまで、広島開催を断ずる声さえあったが、結果はご覧の通りだ。

 政府専用機をバックに語る首相の姿は「すべての決定権は私にある」と印象づけるに十分。サミットに関しては「安倍劇場は成功」とほくそ笑んでいるのではないだろうか。

 前回の日本開催である洞爺湖サミットは、第1次安倍内閣で発表された。ただ、体調不良のための退陣で、安倍首相は出席がかなわなかった。その分、来年のサミットに大きな情熱を傾け、スムーズな運営と成功を長期政権の礎と捉えてもいるだろう。

 であれば今後、情報管理が緩くなるとも思えない。関係閣僚会合がどの候補地に割り振られるか。そして何よりオバマ米大統領が、サミットに合わせて被爆地広島を訪れるかどうか―。天を仰ぐことのないよう、アンテナを張り巡らせたいと思う。

(2015年6月11日朝刊掲載)

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