×

社説・コラム

天風録 「「人選ミス」はお門違い」

 かっこいい話である。随分前、福岡の中学校に数学者秋山仁さんを講師に招いたつもりが、後のプロ野球ソフトバンク監督秋山幸二さんが姿を現した。だが、手違いはともかく「代打」を快く引き受け、生徒を喜ばせたという▲逆に手違いはないのに、人選ミスだったと後で騒ぐのはかっこ悪い。衆院憲法審査会で斯界(しかい)の権威、長谷部恭男さんを自民党が参考人に推したところ、集団的自衛権行使は憲法違反、と「異論」を突き付けられた件だ▲よほどの衝撃が政府・与党に走ったのだろう。「全く違憲でないという著名な憲法学者もたくさんいらっしゃいますから」などと言いたい放題。収拾すべく、政府も反論を取りまとめた▲たまたま政権を取った勢力の判断で憲法の解釈を変えます、というのはおかしい―。長谷部さんは本紙連載「憲法 解釈変更を問う」で明言している。節を曲げない、とは同僚の印象だ。政治家の節の方が心もとない▲憲法はわざと改正が面倒なようにしてある―と長谷部さんは著書に記す。ほかの立法で解決できる問題に政治はエネルギーを注げ、という意味である。巨大な政権与党なら人選ミスにあらず、と格好を付ける方がかっこいい。

(2015年6月11日朝刊掲載)

年別アーカイブ