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社説・コラム

『記者縦横』 不安の声 かき消さずに

■岩国総局・野田華奈子

 神奈川県の米海軍厚木基地に近い大和市の小田急桜ケ丘駅。改札を出た途端、すさまじいごう音に身がすくんだ。携帯電話での会話もかき消されて中断。住宅街や公共施設内でも、それは不意に襲ってきた。

 音の主は、厚木基地を発着する空母艦載機。在日米軍再編により、この部隊の59機が2017年ごろまでに岩国市の米海兵隊岩国基地へ移転を予定する。市中心部の愛宕山地区では受け入れのため、米軍家族住宅などの施設整備が進む。

 岩国基地では10年5月、滑走路が1キロ沖に移設され、騒音は移設前と比べて一定に軽減した。だが、ことし5月21日には市街地上空で通常と異なる米軍機の飛行が確認され、移設以降最多となる125件の騒音苦情が市に寄せられた。

 市の照会に、岩国基地は「任務遂行に不可欠な通常訓練」と回答。市民の疑問は拭えないままだ。移転してくる艦載機についても訓練の場所や内容は明らかにされない。全ては米軍の運用次第。市民生活が脅かされない保証などない。

 市は昨年度まとめた総合計画に初めて「基地との共存」を掲げ、日米交流促進など基地を生かすまちづくりに大きくかじを切った。日本側の「思いやり予算」による施設整備を生かす好機かもしれないが、迎えるのは「見えざる相手」だ。

 市と山口県はあらゆる事態を想定し、安心安全な暮らしを守るための抜本的な体制強化に取り組むべきだ。米軍の訓練実態をつかむ情報収集網を築くことなども考えられる。市民の不安の声までも、ごう音でかき消されることがあってはならない。

(2015年6月12日朝刊掲載)

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