原爆・戦争テーマ 展覧会相次ぐ 戦後70年 記録・批判・嘆き…多様なアート表現
15年6月15日
今夏は被爆から70年、戦後70年を迎える。被爆地広島や近隣の美術館、ギャラリーでは、原爆や戦争をテーマにした展覧会が相次いで開かれる。戦争は何をもたらすのか、芸術は戦争とどう向き合ってきたのか―。多様なアート表現を通して考える好機となりそうだ。(森田裕美)
広島県立美術館(中区)で7月25日から始まる「戦争と平和展」は、同館がもう一つの被爆地の長崎県美術館と共同で企画した。両館の所蔵品を軸に、国内外の芸術家約80人が「戦争」を見つめた絵画や彫刻、写真を紹介する。近代戦争の始まりともいえる19世紀初頭のナポレオン戦争から第2次大戦後まで、展示替えも含めて約200点でたどる。
ナポレオン戦争では、テオドール・ジェリコーの油彩画やフランシスコ・デ・ゴヤの版画。第1次大戦ではオットー・ディックスやケーテ・コルヴィッツらの版画や彫刻など。
第2次大戦では、パブロ・ピカソや藤田嗣治らの油彩画、ロバート・キャパの写真のほか、橋本関雪ら日本画家の作品も展示。京都大が所蔵し、通常は一般公開していない須田国太郎「学徒出陣壮行の図」も並ぶ。平山郁夫、丸木位里・俊夫妻、東松照明ら被爆地ゆかりの作家の表現も。
広島県立美術館の山下寿水学芸員は「戦意高揚の目的や記録画的なものもあれば、批判や嘆きを伝えるものもあり、戦争を描いた作品は実に多様。歴史の連続性の中でヒロシマナガサキを見つめてほしい」と話す。9月13日まで。同20日から長崎に巡回する。
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年間を通じ、企画展「ヒロシマを見つめる三部作」を開くのは、広島市現代美術館(南区)。7月18日からの第1部は「ライフ=ワーク」。自らの戦争体験や被爆の記憶、生きることに、生涯向き合わざるを得なかった作家たちを紹介する。香月泰男や殿敷侃(とのしき・ただし)、入野忠芳のほか、被爆者が描いた原爆の絵なども紹介。同時に所蔵する丸木位里・俊夫妻の「原爆―ひろしまの図」を公開修復する。10月に第2部「俯瞰(ふかん)の世界図」、12月からの第3部「ふぞろいなハーモニー」と続く。
泉美術館(西区)は被爆体験を創造の原点にした故入野忠芳と香川龍介、田谷行平3氏による「ヒロシマ70」展を7月12日まで開催中。続いて同16日~9月6日に「復興の記憶 ヒロシマを見つめた写真家たち」を開く。被爆直後から60年代までに焦点を当て、土門拳、木村伊兵衛ら9人と岩波映画製作所の写真家が撮影した約80点を紹介する。
戦争がもたらす悲劇を、父子の視点から見つめるのは、笠岡市立竹喬美術館。「画学生 小野春男と父 竹喬」(7月18日~9月6日)。同市出身の日本画家小野竹喬と、画家として歩み始めるも26歳で戦死した長男の物語。長野県の無言館に預けられていた春男作の「茄子」やスケッチなど2人の作品や関連資料約50点でたどる。「画家として大成する時間を持ち得なかった春男と、深い哀惜の念にさいなまれながら2人分の仕事をしようと誓った竹喬に思いをはせてほしい」と徳山亜希子学芸員。
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廿日市市のはつかいち美術ギャラリーでは7月15~26日に、所蔵作品で構成する平和美術展。続いて同31日から「第19回平和美術展 宮川啓五展―ヒロシマの記憶」を開く。被爆者でもある日本画家の宮川さんが70年を経て自身の体験と向き合った新作も含め、計40点を展示する。
同市のアートギャラリーミヤウチは、ヒロシマを捉えた収蔵作品を中心に「静寂の強さ」展を7月4日まで開いている。同26日からは、米ニューヨークなどを拠点に活躍する世界的アーティストによる「TODAY IS THE DAY:未来への提案」展。
広島市中区のギャラリーGは、NPO法人アートプラットホームGの被爆70年企画として7月21~26日に竹田信平「MEMORIA(L)/メモリア(る)」を開催。8月末にかけて国内外3人のアーティストの個展を順次開く。
ほかにも、美術作家らが自身の戦争や被爆体験を見つめる個展など、数多くの展覧会が予定されている。
<被爆70年、戦後70年に関わるテーマで、7月に始まる主な展覧会>
会期 展覧会名 会場
7月16日~9月 6日 復興の記憶 ヒロシマを見つめた写真家たち 泉美術館(広島市西区)
7月18日~9月27日 ヒロシマを見つめる三部作第1部「ライフ=ワーク」 広島市現代美術館(南区)
7月18日~9月 6日 画学生小野春男と父竹喬 笠岡市立竹喬美術館
7月25日~9月13日 戦争と平和展 広島県立美術館(中区)
7月31日~8月30日 第19回平和美術展 宮川啓五展-ヒロシマの記憶 はつかいち美術ギャラリー(廿
日市市)
7月26日~9月27日 TODAYISTHEDAY:未来への提案 アートギャラリーミヤウチ(同)
7月21 ~26日 被爆70年祈念特別Gセレクション ギャラリーG(広島市中区) 竹田信平「MEMORIA(L)/メモリア(る)」
(2015年6月12日朝刊掲載)
広島県立美術館(中区)で7月25日から始まる「戦争と平和展」は、同館がもう一つの被爆地の長崎県美術館と共同で企画した。両館の所蔵品を軸に、国内外の芸術家約80人が「戦争」を見つめた絵画や彫刻、写真を紹介する。近代戦争の始まりともいえる19世紀初頭のナポレオン戦争から第2次大戦後まで、展示替えも含めて約200点でたどる。
ナポレオン戦争では、テオドール・ジェリコーの油彩画やフランシスコ・デ・ゴヤの版画。第1次大戦ではオットー・ディックスやケーテ・コルヴィッツらの版画や彫刻など。
第2次大戦では、パブロ・ピカソや藤田嗣治らの油彩画、ロバート・キャパの写真のほか、橋本関雪ら日本画家の作品も展示。京都大が所蔵し、通常は一般公開していない須田国太郎「学徒出陣壮行の図」も並ぶ。平山郁夫、丸木位里・俊夫妻、東松照明ら被爆地ゆかりの作家の表現も。
広島県立美術館の山下寿水学芸員は「戦意高揚の目的や記録画的なものもあれば、批判や嘆きを伝えるものもあり、戦争を描いた作品は実に多様。歴史の連続性の中でヒロシマナガサキを見つめてほしい」と話す。9月13日まで。同20日から長崎に巡回する。
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年間を通じ、企画展「ヒロシマを見つめる三部作」を開くのは、広島市現代美術館(南区)。7月18日からの第1部は「ライフ=ワーク」。自らの戦争体験や被爆の記憶、生きることに、生涯向き合わざるを得なかった作家たちを紹介する。香月泰男や殿敷侃(とのしき・ただし)、入野忠芳のほか、被爆者が描いた原爆の絵なども紹介。同時に所蔵する丸木位里・俊夫妻の「原爆―ひろしまの図」を公開修復する。10月に第2部「俯瞰(ふかん)の世界図」、12月からの第3部「ふぞろいなハーモニー」と続く。
泉美術館(西区)は被爆体験を創造の原点にした故入野忠芳と香川龍介、田谷行平3氏による「ヒロシマ70」展を7月12日まで開催中。続いて同16日~9月6日に「復興の記憶 ヒロシマを見つめた写真家たち」を開く。被爆直後から60年代までに焦点を当て、土門拳、木村伊兵衛ら9人と岩波映画製作所の写真家が撮影した約80点を紹介する。
戦争がもたらす悲劇を、父子の視点から見つめるのは、笠岡市立竹喬美術館。「画学生 小野春男と父 竹喬」(7月18日~9月6日)。同市出身の日本画家小野竹喬と、画家として歩み始めるも26歳で戦死した長男の物語。長野県の無言館に預けられていた春男作の「茄子」やスケッチなど2人の作品や関連資料約50点でたどる。「画家として大成する時間を持ち得なかった春男と、深い哀惜の念にさいなまれながら2人分の仕事をしようと誓った竹喬に思いをはせてほしい」と徳山亜希子学芸員。
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廿日市市のはつかいち美術ギャラリーでは7月15~26日に、所蔵作品で構成する平和美術展。続いて同31日から「第19回平和美術展 宮川啓五展―ヒロシマの記憶」を開く。被爆者でもある日本画家の宮川さんが70年を経て自身の体験と向き合った新作も含め、計40点を展示する。
同市のアートギャラリーミヤウチは、ヒロシマを捉えた収蔵作品を中心に「静寂の強さ」展を7月4日まで開いている。同26日からは、米ニューヨークなどを拠点に活躍する世界的アーティストによる「TODAY IS THE DAY:未来への提案」展。
広島市中区のギャラリーGは、NPO法人アートプラットホームGの被爆70年企画として7月21~26日に竹田信平「MEMORIA(L)/メモリア(る)」を開催。8月末にかけて国内外3人のアーティストの個展を順次開く。
ほかにも、美術作家らが自身の戦争や被爆体験を見つめる個展など、数多くの展覧会が予定されている。
<被爆70年、戦後70年に関わるテーマで、7月に始まる主な展覧会>
会期 展覧会名 会場
7月16日~9月 6日 復興の記憶 ヒロシマを見つめた写真家たち 泉美術館(広島市西区)
7月18日~9月27日 ヒロシマを見つめる三部作第1部「ライフ=ワーク」 広島市現代美術館(南区)
7月18日~9月 6日 画学生小野春男と父竹喬 笠岡市立竹喬美術館
7月25日~9月13日 戦争と平和展 広島県立美術館(中区)
7月31日~8月30日 第19回平和美術展 宮川啓五展-ヒロシマの記憶 はつかいち美術ギャラリー(廿
日市市)
7月26日~9月27日 TODAYISTHEDAY:未来への提案 アートギャラリーミヤウチ(同)
7月21 ~26日 被爆70年祈念特別Gセレクション ギャラリーG(広島市中区) 竹田信平「MEMORIA(L)/メモリア(る)」
(2015年6月12日朝刊掲載)