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社説・コラム

社説 普天間騒音で賠償命令 「違法」放置は許されぬ

 米軍基地の負担を、住民はどこまで耐え忍ばなくてはならないのか。沖縄県宜野湾市の米軍普天間飛行場の騒音をめぐる訴訟で、またも重い判決が出た。

 おととい那覇地裁沖縄支部は周辺住民の訴えを一定に認め、合わせて約7億5千万円を賠償するよう国に命じた。賠償命令が確定した普天間の第1次訴訟を踏襲した格好だ。

 騒音の目安となる「うるささ指数(W値)」で75以上の地域には騒音の違法性を認めて賠償する―。あちこちの騒音訴訟で定着する流れも踏まえている。まずは妥当な司法判断だろう。

 住宅地に囲まれ、学校も目の前にある普天間。事故の危険性を日米政府とも認めている。さらに米軍機の騒音も放置できない状況であることが、あらためて鮮明になったといえる。

 今回は第1次訴訟と違い、原告が求めない飛行差し止めは争点とならなかった。とはいえ基地騒音を考える上で重要な指摘が判決には含まれていよう。

 「国民全体の利益につながる公共性を有する」と基地の存在自体は認める一方、その公共性だけで被害を受忍すべきものとはならない、とした。その上でW値75以上なら「違法な権利侵害」「法益侵害」と断罪した意味は重い。それに加えて、国による防音工事も違法性を減らさないとした点も目を引く。

 国は厳しく受け止めるべきである。まず早急かつ目に見える負担軽減を考えなければならない。政府と沖縄県が激しく対立する名護市辺野古沖への移設計画は、対応に手をこまねく大義名分とはならない。このまま埋め立て工事を強行したとしても実際の基地移転は相当先になるからだ。それまでの騒音や危険を放置するのは許されない。

 安倍政権が沖縄側にいったん約束したはずの「2019年2月までの普天間の運用停止」にしても、実際には日米間で棚上げされた状況だ。もし沖縄の住民に理解と協力を求めたいのなら、米軍側に厳しい飛行制限と騒音の抑制をすぐにも要求するのが筋ではなかろうか。

 事は沖縄だけの問題ではない。各地の米軍基地の騒音についても同じことはいえよう。

 頭に浮かぶのは米海兵隊岩国基地のことだ。神奈川県の厚木基地からの空母艦載機部隊の移転に向け、米軍住宅などの工事が本格化しつつある。

 5年前に岩国基地の滑走路は沖合に1キロ移設された。それまでの騒音が一定に軽減された側面は確かにあろう。しかし厚木周辺の住民を長年苦しめる艦載機の激しい騒音が、現実の住民生活にどれほど影響をもたらすのかは必ずしも見通せない。

 そもそも忘れてならないのは他の基地なら違法かつ賠償の対象とされてきたW値75以上というエリアが、現在もこれからも岩国に存在することだ。騒音被害の損害賠償などを国に求めた初の住民訴訟も既に結審し、判決を待つ段階である。

 各地で相次ぐ基地騒音訴訟での厳しい司法判断に対し、国は「賠償金で済むなら」と安易に考えてきたのではないか。

 違法だから賠償せよと裁判所から命令されたのに、現状を漫然と放置する。そんな姿勢なら本質的にいえば法治国家の体をなさない。日米同盟の強化の陰で、その矛盾にどこまで見て見ぬふりをするのだろう。

(2015年6月13日朝刊掲載)

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