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社説・コラム

どう見る安保関連法案 広島修道大法学部・佐渡紀子教授 日本守る選択肢増える 

 米国の抑止力が低下する中、北朝鮮が進める核兵器の開発や中国の急速な軍拡は脅威だ。集団的自衛権の行使を認める安全保障関連法案は、米国との同盟関係を強化し、日本を守る選択肢が増える点で一定の意味がある。

国の信頼高まる

 日本国際問題研究所(東京)の研究員などを経て広島修道大助教授になり、2014年4月から現職。専門は平和学と国際安全保障論で、欧州の信頼醸成の仕組みなどを研究している。広島市東区出身。

 この法で国際社会の信頼が高まるだろう。他国を犠牲にしても自国だけ安全であればいい、という考え方を乗り越える努力を続けてきた欧州諸国の取り組みが証明している。安全保障の価値観を共有し、同盟を通じて自国の安全が担保される安心感がある。

 ただ、国会審議に課題は多い。戦後貫いた「専守防衛」の基本方針が揺らぐ転換点にあるにもかかわらず、抽象的な議論に終始している。集団的自衛権の行使を認める「存立危機事態」の定義はあいまいだ。日本の存立を脅かす明白な危険はどんな場面を想定しているのか、国民に理解されていない。

 そもそも集団的自衛権は自国の安全のためでもあるが、本質的には同盟国が攻撃された際、その国と一緒またはその国に代わって反撃する権利のことだ。日本の存立が脅かされるのであれば、それは自国が攻撃された時に反撃できる個別的自衛権の考え方だ。日本の存立が脅かされつつ、米国が攻撃される場面はどういう場面か分からない。

丹念な説明必要

 関連法案は、事実上の地理的制約を撤廃し、支援対象は米軍以外の他国軍も想定している。日本防衛のために活動する米軍や他国軍の艦船も防護できるようになる。

 リスクは増えないとする政府の説明は、あいまいさを象徴する。国連要人たちの「駆け付け警護」や他国軍への弾薬の提供など自衛隊の活動が拡大すれば、敵対勢力から攻撃の対象になり、危険が増すことは明らか。将来的に自衛隊の活動を制約することになりかねない発言をなるべく控えているようにも感じる。

 安倍晋三首相は4月に米国議会の演説で今夏成立を約束し、対米公約を優先させている。順番が違う。武力を国家間の問題解決に用いること自体、戦争や被爆の悲惨さを実感する広島の人には受け入れられないだろう。政府はきちんとした手続きを踏みながら、法案の必要性などを丹念に説明するべきだ。(有岡英俊)

(2015年6月17日朝刊掲載)

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